「引き受ける」ピアノ レイフ・オヴェ・アンスネス ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番
2011年、9月16日のNHK交響楽団の第1707回定期公演にて、ノルウェー出身のレイフ・オヴェ・アンスネス(1970年~)がラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏しているのをN響アワーで聴くことができました。
先日、私のブログでご紹介したラン・ランも同じ曲を弾いていたのですが、才気ほとばしる彼とは正反対の演奏だったと思います。
ラフマニノフの3番といえば難曲中の難曲。技巧を見せる演奏が一般的ですが、アンスネスは全くそのようなことはありません。
技巧よりは、曲の内面に入り込み、作品の構成感を前面に押し出した演奏。
ラフマニノフにありがちな派手な音色を使わずに、重厚なタッチでひたすら真摯に曲と向かい合う。
「愚直」という言葉が似合っています。そう、まるでブラームスのように内向的で、思索的なのです。なんという内容主義の音楽。
「ほら、良く弾けるでしょう?」とでも言わんばかりの演奏が多い中、細かいパッセージを一つも弾き飛ばさずに丁寧に弾きこんでいくところに、アンスネスの人柄が感じられました。
出したくなるところを、ひたすら辛抱する。精神的な体力が凄いと思います。見ていて思わず「ううむ・・」と力が入りました。
深く思索し、我慢しながら、心を込めて音を紡いでいく姿は、北欧の長い冬を過ごす人たちの性格を思わせます。
特に、第二楽章での管楽器オーボエとの掛け合いも見事。
ソリストが勝手に主役を演じるのではなく、オーケストラとのアンサンブルも一つ一つぴったりと息があっているのです。
協奏曲が、「競争曲」ではなく、本当に「協調性のある音楽」であることを再認識させてもらいました。
普通は外面的な要素を重視するあまり、ピアノの派手なパフォーマンスが見物となる場合が多い第3楽章。
ここも、楽譜の細かいところが、手に取るように聴こえてきて、普段目にもとめなかったところにこんな美しいお花畑があったかな、と気がつかせてくれるようでした。
ラフマニノフであるから、ものすごいテンポの揺れや、狂気ギリギリの爆発があっても良いかもしれません。しかし、アンスネスの場合、内面の追求が深く、十分説得力を持っていました。
「ラフマニノフってこんな風に演奏してもいいのだ」というピアニストにとっての安心感をいただけたように思えます。
私は彼の演奏は一言でいうと「音に対する責任感」だと思います。
音の一つ一つ、投げ出さず、全て引き受けている。
「ここはなぜこういう音を出したの?」と問われれば、全て答えがあるようなピアノだったと思います。
最後、作曲家の西村朗さんが「オーケストラとピアノ、全てがビタッと合っているのがすごい。入念なリハーサルの結果ですね」とおっしゃっていました。
指揮者のブロムシュテットさんは、なんと御年84歳。
アンスネスを、包み込むように、誠実にサポートしたその音楽はますます深く、ある種の境地に達していると感じました。
素晴らしいオーケストラだったと思います。
良き演奏。有り難うございました。