レガートは16分の1秒差できまる
「ピアノは打楽器なので、ピアノの人は音と音の距離や時間を使って移動する発想が乏しいね」
先日、バリトン歌手の方とお話していたら、そんな話になりました。
ピアノは、打鍵するとその瞬間から音が減衰しますので、伸びる音を扱う楽器や歌と基本的な思考が違うのです。
ピアノは、減衰する音をいかにつなげて、あたかも「歌っているように」聴かせるのが、難しい。これは指が早く回るということより難易度は高いと思います。
歌の人は、音がつながるのは当たり前ですから、いかに音と音の間を取り扱うかに命をかけるのです。
例えば、より音と音の間を表現するために、音が上がるときはゆったり時間をかけ、下がるときはそんなに時間は使いません。
音程の広いときは、距離感を表現するために、より時間を使ったりします。
この音と音の間をものすごくつなぐことを「レガート」と言います。
レガートとはイタリア語で「音をつなげる」という意味。
「ひもをしばる」というときの「しばる」でもレガートという言い方をします。
先日、テノールの秋島先生が面白いことをおっしゃっていました。
音と音を移動する瞬間が16分の1秒より早く動くとレガート。
16分の1秒より遅く動くとポルタメント、と人間の耳は認識するのだそうです。
ポルタメントとは音と音の間を微妙な音程で移動することをいいます。滑り台のように間の音が聴こえてしまうということですね。
だから、歌の人は基本的に「レガートでもポルタメントの意識を持って歌っている」ということになります。
本来は、ピアノでいう鍵盤と鍵盤の間の音がわかっていないと歌えないということになのでしょう。
しかし16分の1秒とは。
ここまで意識して初めて音楽になるのですね。
歌を勉強しながらピアノをしているとたくさんの発見があって興味がつきません。