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一瞬の光に命をかける 山田耕筰「曼珠沙華」

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詩人北原白秋、作曲家山田耕筰作、ゴールデンコンビの最高傑作と名高い「曼珠沙華」。
 
2011年7月30日、合唱団コール・リバティストに東混(東京混声合唱団)のテノール歌手秋島先生をお招きしての練習を行いました。
 
林光さん編曲で、この「曼珠沙華」を歌っています。
この歌は東混でもよく歌われ、林さんご自身のピアノと指揮(弾き振り)による演奏は特に有名ですね。
 
林さんは、たくさんある日本抒情歌の中でも、この曲だけは、山田耕筰の原曲が完璧なので、編曲においてピアノパートに一切の手を加えていません。
そして、この曲に関しては山田耕筰の原曲にそって、強弱記号をきちんと書いています。
 
林さんは、たくさんのオペラを書いていますが、「強く」とか「弱く」とか、ほとんど何の指示もないものがめずらしくないそうです。そこは演奏家に任せているのですね。何も書かない主義のようで、この曲のほうがよっぽど書いています。
 
山田さんは、楽譜の指示が細かくきっちりしていることで有名でした。
書いている以上はその通りしなくてはならないのです。
 
作品の冒頭、九州で「おじょうさん」を意味する言葉「ゴンシャン」がわざわざローマ字を用いて「Gon shan」と書かれています。
 
先生がおっしゃるには、九州では鼻濁音にしないところもあり、アルファベットでわざわざ書いていることから、「Gon shan」の[G]には鼻濁音を用いないほうが良いそうです。
いつも日本語の歌は鼻濁音と意識しているのですが、こういう例外もあるのですね。
 
例えば、山田耕筰の「赤とんぼ」。これを「赤」の「あ」の方にアクセントをつけることが多いのですが、なぜなのか?という謎があります。
山田さんは、そういうことにもとてもうるさい人だったのです。
林光さんは「上野の方にある下町で、赤とんぼの「あ」を強く言う言い方をすることがあるが、それを書いたのでは?」とおっしゃっているそうです。
実際、アクセント辞典には「赤とんぼ」の「あ」が強くても、そうでなくても、両方正解とされているそうです。
 
「曼珠沙華」40ページ5小節のところに、今までハ短調だったところが、わずか2小節分だけハ長調(明るい調子)に転調する部分があります。
 
ここは、この曲で大変重要なポイントであり、驚くほど衝撃的なところであります。
いわば、聴いていて「ゾクッ・・」とする場所。
この美しさを際立たせるためには、「音を良くあわせようとする」ことが大切です。偶然に起こったことのように、通り過ぎてはいけません。
 
モーツァルトの作品でもそうですが、短調(暗い調子)作品のとき、当然現れる長調(明るい調子)・・・しかも、一瞬の光が見えるようなそのほんの少しの時間に、どうしていいのか分からなくなるほどの、自分の身の置き所をどうしていいのか分からなくなるほどの感動を覚えることがあります。
 
作曲上も大変厳しいところでもありますが、作曲家渾身の震えがくるような瞬間に演奏家は命をかけなくてはなりません。
 
技術的にマスターするだけではダメなんですね。
 
もっと音を合わせようとする、アンサンブルしようとする気持ちを強くもつようにしなくては、と思いました。

★2011/08/14  こちら補足しました→「Gon shan」の[G]には

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