「人は歌うために生まれてきた」 声を出すことは楽しい 楽しければ上手くなる
私は、公立中学校で2週間続けて音楽の授業をしたことがあります。
このとき困ったのが、「どうやって声を出してもらうか」でした。歌うということ以前に、「声を出すこと」に対して抵抗感があるようなのです。
「人前で歌うくらいだったら廊下に立たされているほうがマシ」という男子生徒もいました。
プロの合唱団は、「音楽教室」をするため全国の学校を回ります。
話しを聞くと、「以前と比べて一緒に歌うより、鑑賞だけの方が多くなってしまった」そうです。授業の中であまり音符を読むことをしないので、ピアノを習っている子くらいしか音符を読めないといいます。
これでは、歌うどころか声を出すことすら難しいかもしれませんね。
だから私は、やったこともない初めてのチームで合唱をするとき、まず「どうやって声をだしてもらうか」ということをものすごく考えます。
本来、生き物にとって「出すこと」はとても気持ちいいことなのです。
クジラが潮を吹いている場面を見たことがあるのですが、これはほんとに気持ちよさそうでした。
同じように声だって、出すことは気持ちいいはず。
ぜひ、これを分かってもらうことから始めたいのです。
私の場合、まず歌うことはせず、お決まりの難しい発声練習もナシ。
いきなり、「お~い!」と遠くの人を呼んでもらったり、考えたり構えたりしなくても出せるような日常的な声を出してもらいます。
すると、最初は戸惑われますが、いつのまにか嬉しそうに声を出してくださるのです。
狭い空間で「他人に迷惑になるのでは?」とか、幼い頃から親に「変な声を出すんじゃありません!」などと言われて、本当は自分の声を出してたくてたまらないのを知らず知らずのうちに我慢しているのですね。
声を出すことって本当は気持ちいいもの。
そして、気持ちよく出したときの声が素晴らしいことに驚かされます。
人は楽しい状態になれば、もう何も言わなくても上手に歌ってくれるものなんですよ。
初めての曲であれば「音をはずす」ことはあっても「音痴」になることはありません。私は今まで音痴な人を見たことがないんです。何回かゆっくりと繰り返してあげれば必ず歌えるようになります。
人は歌うために生まれてきたのではないかと思えるほど、高い能力を持っている生き物だとこの頃実感します。
その能力を最大限まで引き出すのが指揮者であり指導者なのですね。