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なぜ歌いながら足で拍子をとってはいけないの?

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舞台上で足踏みしたり頭を上下に振ってテンポ(拍子)をとったりすることはあまり行いません。見た目などのお作法としても教えられるのですが、それには意味があります。
 
プロでも、かなりの訓練を積まなければ、体の中にテンポ感を作ることは難しいと思います。
「体内テンポ」とでもいうべきものです。
 
しかし「体内テンポ」ができた演奏家でも、メトロノームを使ってのトレーニングや確認を行っています。
人間の感覚というのは思ったほど正確ではなく、自分の都合に合わせてテンポが伸びたり縮んだりしてしまうものなのです。
一人で演奏するソリストなら、多少の伸び縮みがあってもよいのですが、オーケストラや合唱などの集団音楽では、音が合わなくなってしまいます。
 
指揮者の立場からすると、楽団員の足踏みが自分の指揮とズレている場合(大抵はズレているのですが)、大変困るのです。
まず、「この人は指揮を見ていない(感じていない)のでは?」と思ってしまいます。
そして、アンサンブルの最中、足踏みの音や振動、雰囲気は他の楽団員にも伝わります
昔、現代の指揮スタイルになる前の指揮者は、杖のようなもので床をドンドンと叩いて指揮をしていました。
足踏みをするということは音が発生するので、その人が集団のテンポ感を支配してしまう、指揮者的役割になってしまうのです。そうすると、他の演奏者は指揮者と違うテンポ感に惑わされてしまいます。
 
ジャズやロックなどの経験豊かなメンバーが演奏している場合、全員が体の中に絶対的な体内テンポや体内リズム感を持っているので、ズレることが少なく、もし足踏みしていたとしても問題ないと思います。
 
また、初心者が多い団体においては、トレーニングの意味で意図的に足踏みをするのは良いかもしれません。私も合唱の指導で、手拍子でテンポをとってみる練習をすることがあります。(人によっては手拍子をとるともっと分からなくなる方もいますが・・・)しかし、お客さんが入るような本番の舞台では、はずすようにするほうがスマートであると思います。
 
それでも「どうしても足踏みしないとテンポやリズムを見失ってしまう」という人がいるかもしれません。
できるだけ個人の練習でメトロノームを使用することをお勧めします。「体内テンポ」がだんだん出来てきます。
また、良い指揮であれば、見ることできちんと合ってきます。できるだけ指揮を見るようにするとよいでしょう。
 
また、足踏みは意外と「クセ」になっている場合も多いと思います。「足踏みしなければできないかも」という思い込みです。ある時期、間違ってもいいので少し我慢してみましょう。意外と踏まなくても大丈夫になってきます。
 
ただし、曲によっては、テンポがきっちりしすぎないほうが良い場合もたくさんあります。
「拍子の動きがなくて幼稚な演奏だ」と評価されてしまうこともあるくらいです。これは、ベートーヴェンのような比較的正確なテンポ感を要求される作品でもそうです。
 
しかし、動かすにしても、まず基本的にきっちりしたテンポ感というものを持って動かしていくことが必要です。注意しないと、単なる「酔っ払い」のような演奏になってしまうからです。
 
声楽の伴奏などをしてよく感じるのは、歌を歌う人こそ体内テンポを持つ必要があるということです。
息を継ぐところや、難しいパッセージで遅くなって伴奏者に待ってもらいたいところ、また作曲家の指示で自由に歌うところであっても、「基本的なテンポよりどのくらい誤差があるか」わかっているのといないのとでは、音楽の「格」が全く違ってきます。
 
テンポ感は人に見せないものです。体の中心で強烈に持っているもの。良いテンポ感で演奏していきたいものですね。

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