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「神よ なぜにわれを見捨てたもうか」 モーツァルト 交響曲 第40番

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「危機的状況に陥った人々の前でも音楽は力を発揮できると思う。」
 
昨日の記事でも書いた指揮者、ズービン・メータの言葉です。
 
モーツァルトの交響曲 第40番 ト短調 k550
 
数あるクラッシック曲の中でも特に有名なこの曲をご紹介します。
 
全部で41曲あるモーツァルトの交響曲の中で、たった2曲しかない短調曲(暗い調)のうちの一つです。
 
40番を書いた時期というのは、経済的に苦しく、1787年に最愛の父親レオポルド、そして翌年には長女が亡くなるという、身内の不幸が続いていました。しかし、この困窮から抜け出そうと演奏会を企画し、39番、40番、41番と2ヶ月という驚くべき短期間で一気に3曲の交響曲を書き上げたのです。
 
名指揮者、ブルーノ・ワルターは、モーツァルトの演奏を最も得意としていました。
彼は40番のスコア第一楽章の冒頭に、
 
「神よ、なぜにわれを見捨てたもうか」
 
「われ、この貧しき者を」
 
と、聖書の言葉を書きこんでいるのが残されています。
 
センス抜群のワルターも素晴らしいのですが、今日はスペイン出身のチェリストとしても有名指揮者、パブロ・カザルス(1876年~1973年)の演奏を聴いてみることにします。
 
私は、初めてカザルスの演奏を聴いて、「モーツァルトというのは、単に優雅で楽しくて美しいだけの音楽ではない」ということを知りました。
 
幼い頃から「モーツァルトというのは正確なテンポで演奏しなくてはならない」というように教えられてきたのですが、しかし、カザルスの演奏は、心に吹きすさぶ激しい嵐にギリギリのところまで耐え、それでも持ちきれなくて動いてしまうテンポの揺れがあります。
 
深い悲しみに身も心も打ちひしがれた慟哭が聞こえてくるのです。
 
心の傷から血が噴出すような激しさ。
寂しくて寂しくてたならない、でも前に進まなくてはならない。
 
メロディだけではなく、伴奏の刻みの部分もザクザクと演奏させており、それが強靭な意志の力を感じます。
 
深い寂寥感があるからこそ、長調(明るい調)に変化する0:34くらいの部分が、胸を締め付けられるのです。
 
涙を目にいっぱいためながら疾走するモーツァルトがそこにいます。
 
「世界であなたは一人ぼっちではないんだよ」
 
音楽は、そう語りかけてくれているように思えます。
 
カザルス指揮、マールボロ音楽祭管弦楽団の演奏です。

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