ここ一番の日 のりきるための体力はありますか
フランス人女流ピアニスト、フランス・クリダ。
「マダム・リスト」と言われるほどのリスト弾き。
リストの演奏においては世界最高のピアニストだと思います。
リストは、ピアノ弾きにとっての牙城です。
ピアニスティックな音楽性、超絶技巧のテクニック、そして、何といっても手の大きさが必要とされる作品ばかりで、手が小さいばかりにリストを弾きたくても弾けないピアニストがいるほどです。
音高時代だったと思います。クリダが来日した際、レッスンを受ける機会に恵まれました。
燃えるような真っ赤な髪に、大きな瞳。
そして、リストを弾くにふさわしい大きな手と大柄な身体の方でした。
レッスンでは
「私だったらこう弾くわ」
と言って自ら演奏してくださるときの、上手なこと上手なこと。
ただ上手なだけではなく、ポンと出した一つ一つの何でもない音までが輝きがあり、説得力に満ち満ちているのです。
素晴らしいレッスンでした。
今でも彼女の言葉を思い出しながらリストの曲を弾いています。
そのとき、オール・リストプログラムで、クリダのリサイタルがありました。
オール・リスト、というのは男性ピアニストでもなかなか行うことがないほどの大変な体力と精神力を必要とします。
どんな演奏をするかと、ホール中、期待と熱気にふくらんでいました。
颯爽と弾きだした演奏は、ヴィルトゥオーゾの真骨頂。
舌を巻くような上手さでした。
ものすごい絶好調で弾き続けていたクリダ。
盛り上がってきた曲の途中、ババーン!と最強音を弾いたその反動で両手が上がりました。
「あっ」と思ったとたん、クリダは、スローモーションのように、両手を万歳したまま、後ろに倒れ落ちていきます。
そのまま、ステージのど真ん中で大の字になってしまいました。
クリダは倒れたままピクリとも動きません。
しーんと静まりかえり、誰も物音一つたてることもなく、ホール中が固まっていました。
実際、数十秒だったと思います。
かなり長い時間に感じられました。
やっと、舞台ソデから関係者2~3人の男性がかけより、サーッとクリダを運んでいったのです
そして「演奏会中止」のアナウンスとともに、会場中あっけにとられたような状態で、帰路につくことになりました。
後から私の先生に聞いたのですが、どうもダイエットをしていて、来日してからはサンドイッチを少しだけ食べるだけの生活をしていた、ということでした。
栄養不足で演奏したため、貧血をおこして倒れてしまったようです。
素晴らしい超一流のピアニストでも、このようなことがあるのですね。
リサイタルは、精神的なストレスや緊張、そして長いプログラムを最後まで弾きとおす体力を必要とするのです。
ダイエットしたい女性の気持ち、今では良く分かります。
しかし、少しふくよかになったとしても、リサイタルまではたくさん食べておいたほうがいいようですね。
★関連記事
2010/05/27 「ここ一番の前日に何をすべきか、どう過ごすか 前日に何をしたかで出来が左右される」
2010/05/28 「ここ一番の当日何をすべきか、どう過ごすか 本番で100%の力を発揮するためのテクニック」