「いかに人を活かすか」がリーダーの仕事
3月18日、日本芸術院賞に指揮者の大野和士さんが選ばれ、さらに、特に顕著な業績を残したとして恩賜賞も併せて授与されました。
2008年の11月2日放送、情熱大陸出演の録画を再び見てみることにしました。
大野さんは、2008年9月からフランス国立リヨン歌劇場の首席指揮者に日本人として初めて就任され、ヴェルディの「運命の力」公演に向けて忙しく緊張感の絶えない日々を過ごされていました。
指揮者の部屋に入り、少しの時間を惜しむようにスコアを広げたとたんノックの音。
スタッフやマネージャーはフランス人ばかりではありません。
次々と訪れる関係者に、英語、イタリア語、フランス語、ドイツ語、様々な国の言葉を使い分け対応しています。
国際的指揮者は、指揮の実力に加え、卓越した語学力が必要といわれています。
人間対人間のコミュニケーションが最も大事な職業だからです。
オーケストラに音楽の表現をメールで伝えながらリハーサルはできません。
そして、大野さんのようにオペラを中心に演奏する指揮者ともなれば、歌詞やセリフは様々な言語を扱います。
自宅では、次回イギリス公演でのオペラを自分で辞書を引きながら英訳していました。
本来なら助手に任せるような仕事も自分でしなければ気がすまないようです。
勉強は膨大な時間を必要とします。
まさに24時間、指揮者。
大野さんのオーケストラとのリハーサルは真剣勝負です。
思い通りに演奏できないパートに対しても絶対に諦めません。
出来るまで辛抱強く指示し続けていました。
「『いかに人を活かすか』これなんですよ。
なぜかというと指揮者自身が音を出しませんから。
表現者というよりも、表現を引き出す人という、ある意味では特殊な言い方が出来る職業かもしれませんね。」
クロアチアのザグレブ・フィルの音楽監督をしていた時期、内戦で演奏会が危ぶまれる日々を過ごされ、「人間はどんな環境でも音楽を必要としている」ということを感じたそうです。
「私は今48歳です。本当にやりたいことを体力のあるうちにやっておきたいのです。」
5日間だけ時間が出来たところ、日本に戻り、障害を持った子供たちの病院や施設を巡り、自らピアノを弾いて演奏をし、共に歌って、音楽の素晴らしさを伝えていました。
番組の最後、車の移動中に語っていた言葉が強く心に残りました。
「こだわりっていうか、自分のちっぽけな自我を見せるというような欲求が自分の中にあるとしたら、それはね、ベートーヴェンに対して失礼です」
大野さんの、自分の全てを捧げるような音楽への姿勢は、この謙虚さからきているのですね。
授賞式は5月31日。
素晴らしい方が受賞されたと思います。