IT業界、誰と誰が手を結ぶかで予測できることとは
先日のDell Technologies World 2019の基調講演には、マイクロソフトのCEO サティア・ナデラ氏が登壇、VMware CloudのサービスをMicrosoft Azureで提供する新たな協業を発表した。顧客がIaaSにVMwareを入れ動かすとの選択ではなく、マイクロソフト自身がVMware Cloudの環境をサービスとして提供する。これだと社内的には競合する部分が、なきにしもあらずだろう。
競合にはならず補完関係にある良好な提携関係をアピールしたのが、SAPとAppleだった。SAPPHIRE NOW 2019では、基調講演にAppleのCEO ティム・クック氏が登場し、会場を驚かせた。両社は2016年から協業関係にあるが、その関係性が良好でありさらに深まっていることが伝えられた。
そもそもはSAPのアプリケーションの、ユーザーインターフェイスでiPadやiPhoneといったiOSのモバイル端末を活用する提携だった。そこから関係はさらに深まり、今回の発表ではiOS端末上のAppleの自然言語処理などのAI、機械学習機能を、SAPのアプリケーションと組み合わせて活用できるようにする。さらにはSAP LeonardoのAI、機械学習のアルゴリズムを、エッジサイドとなるiOSの端末にダウンロードして活用できるようにもする。
SAPは、マイクロソフトとも仲が良い。自社のクラウド戦略において、SAPではプラットフォームはオープン化している。そのためMicrosoft AzureやAmazo Web Services、IBM Cloudなど、パブリッククラウドのIaaSの上でSAP Cloud Platformを動かし、S/4HANAなどをSaaSとして展開している。前出のDell TechnologiesファミリーのクラウドサービスベンダーVirtustreamも、SAPのアプリケーションを動かすのに特化したクラウドサービスを提供している。
実際、日本においてもMicrosoft Azure上でSAP ERPやS/4HANAを動かす事例は増えているようだ。それもあってか、自社開発者向けイベントであるMicrosoft Buildが開催中にもかかわらず、日本マイクロソフトの平野社長がSAPPHIRE NOWの会場に駆けつけていた。
IT業界では思いも寄らない買収劇も起これば、かつてはライバル関係にあった企業の提携が発表されるなどもあり、勢力地図はかなり柔軟に変化する。企業のビジネスの一部では協業し、一部では競合するなんてこともざらだ。さらにややこしいのは、グローバルでは蜜月関係にあるのに、日本ではその恩恵がほとんど発揮できていないなんてこともある。グローバルの提携発表に期待したが、日本での対応は未定なんてことで、採用判断ができないことにもなりかねない。
別の角度で見ると、誰と誰が手を結ぶかは今後の市場動向の方向性を見極める材料にもなる。マイクロソフトとDell Technologiesの協業は、今後のエッジコンピューティングを含むハイブリッドクラウドの世界を拡大させるものと予測できる。Red Hat Summitの基調講演にナデラ氏が登壇して、マイクロソフトとRed HatがAzure Red Hat OpenShiftを共同で提供すると発表したことも、やはりハイブリッドクラウドの拡大を予測させるものだろう。