マルチクラウドを謳うIBMのパブリッククラウドを選ぶべき強い理由とは
IBMの年次カンファレンスイベント「IBM Think 2019」に来ている。これまでは米国ラスベガスで開催していたものが、今回はサンフランシスコのリニューアルしたモスコーン カンファレンスセンターで開催。会場に慣れていないためか、はたまた参加人数が例年より多いためかかなり混雑して会場間の移動も大変という状況だ。
今回のカンファレンスのテーマでは、マルチクラウド、ハイブリッドクラウドが大きく取り上げられている。マルチクラウドを統合的管理できるツールを新たに提供し、複数のパブリッククラウド、プライベートクラウドのコンテナ環境などを統合的に管理できるようにした。これ、たしかにかんり便利そうなものだ。このようなマルチクラウド、ハイブリッドクラウドの統合的な管理ツールは、他にはないというのが売りでもある。
とはいえ、マルチクラウドという運用形態は、決して理想型ではないだろう。あるクラウドを使っていて、別のクラウドのサービスも使いたいとなり、結果的にマルチクラウドになった。ベンダーロックインの問題はあるけれど、本来なら1つのクラウドで集約した方が効率は良いはずだ。IBMの場合はAWSやAzureなど先行するパブリッククラウドのサービスがあるので、IBM Cloudも顧客が使うとなると結果的にマルチクラウドになるのが現実だろう。もちろん全面的にIBM Cloudにう移行する、最初からIBM Cloudを選ぶ顧客もいるだろうけれど。
そうであるとしたら、IBM Cloudを(追加で)積極的に使うべき強いメッセージが欲しいところだ。その1つになるのが、AI機能のWatsonを使いたいからだろう。とはいえ今回別の発表で「Watson Anywhere」という形でWatsonの各種サービスをKubernetesベースで動くようにしており、パブリック、プライベートなどどのクラウドでも動く戦略も打ち出している。Watsonをマルチクラウド対応させたと言うことではあり、これによりデータのあるところでWatsonを使えるメリットは理解できる。とはいえ、Watsonが使いたいからIBM Cloudでという引きが弱まってしまうようにも感じる。
もう1つ、IBM Cloudを積極的に使いたい理由があるとすれば、今回発表されたzシステムをパブリッククラウドのインフラにしIBM LinuxOneを提供する「IBM Cloud Hyper Protect Crypto Service」がある。これは暗号鍵の管理機能を備え、パブリック・プロバイダーによって提供される唯一の「FIPS140-2 Level 4」認定テクノロジーを使用しているものになる。これでメインフレームのzと同じ高いセキュリティ性と高い信頼性のもとでLinuxをパブリッククラウドで使える。これを使えるのはIBM Cloudならではのものであり、それなりの需要も期待できそうだ。
オープンでマルチクラウドだと言うメッセージを出せば出すほど、IBM Cloudを使う理由が薄れてしまう。この矛盾した状況の中で、いかにIBM Cloudに魅力があるかをシンプルに伝えられるか。それがRed Hat買収以降のIBMのクラウド戦略の鍵になりそうな気がする。