電子書籍の種類 リフロー型編
電子書籍についてセミナーなどで紹介する機会も増え、しばしば現状で自分たちが関わっている電子書籍を分類し説明を行っている。ということで、中小の制作会社目線で、現状の電子書籍を分類してみたいと思う。
リフローするかしないか
まず、大きくは2つの種類に現状の電子書籍は分類できる。それは、リフロー型とリフローしないものだ。リフローというの、簡単に言えば文字の大きさを変更すると、ページ繰りが変わるというもの。ePub形式のファイルをiPadのiBooksで読んだり、Amazon Kindleなどで購入できる書籍がこれに当たる。逆にリフローしない電子書籍というのは、ページのデザインが固定的で変化しないものだ。DTPのデータをそのままイメージ化したものや、WIREDやTimeなどの独自アプリケーション形式の電子書籍もこちらに分類できる。
リフロー型は、文字の大きさを自由に変更できるので、読者の好みに合わせて読みやすく表示を調整できる。文字主体の小説やビジネス書などに向いていると一般的には言われている。逆にリフローしないものは、ページレイアウトデザインの自由度が高く、表現力豊かな電子書籍を実現できる。こちらは、雑誌などに向く電子書籍の形式だと言われている。
リフロー型の特徴
リフロー型の特徴は、まさに文字の大きさが変えられるというところだろう。文字を大きくすればページ数が増え、小さくすればページ数は減る。このページ数の変動に合わせて、通常は目次もダイナミックに変化する。文字の情報はテキストデータとして表現されているので、単語を選択して検索する、しおりを挿入するなどの操作が容易に実現できる。とはいえ、これらの機能は、ePubやAmazon Kindleで利用されているMobi形式の電子書籍データ側が持っているのではなく、これらを読むためのリーダーソフト側の機能に依存する。iPadに搭載されているAppleのiBooksはかなり機能豊富なePubリーダーソフトだが、PC上で動くePubリーダーには機能が貧弱なものも多く、こちらで意図したとおりの表現が実現しないことも多い。
ePubは、横書き圏ではデファクトになりつつあるリフロー型の電子書籍データーフォーマットだ。多くのリーダー端末が、これに対応している。中身はXHMLで、方向性としてはHTML5に向かっているようだ。Webへのリンクの埋め込みなどにも対応しているので、Twitterなどのソーシャルネットワークとの連携なども容易に実現できる。
いまはビデオなどのマルチメディアを組み込むことはできないが、AppleのiBooksでは独自にビデオや音声を埋め込む拡張仕様も提供されており、かなりマルチメディア度の高い電子書籍を実現できる。そのため、文字主体の書籍向きと言われてはいるが、雑誌などでも十分に使えると感じている。HTMLを理解していてWebページの制作ができれば、比較的簡単にePub形式の電子書籍を制作できる。オーサリングに使えるツールも増えているので、制作の敷居はかなり低いと言えるだろう。
Amazon KindleのMobiという形式は、まさにKindleで読むことができるリフロー型の電子書籍フォーマットだ。ePubなどから比較的簡単に変換することもでき、こちらも制作の敷居はそれほど高くはない。写真や絵を挿入することはできるが、ビデオなどのマルチメディアには対応していないので、文字主体の書籍向きだ。Mobiを作る利点は、マルチデバイスに対応している点にあるだろう。Kindleという専用端末はもちろん、PCやMac OSX、iPad/iPhone、Androidなど向けにAmazonがリーダーソフトを提供しているので、1ソースでさまざまなデバイスに対応する。現状、この1ソースマルチデバイスを実現しているのは、このAmazon Kindleの形式だけと言ってもいいだろう。ePubもマルチデバイスに対応はしているが、デバイスごとに表示が大きく異なっていたり、操作性がこれまた大きく異なっていたりと、今ひとつといったところだ。
現時点の日本における、ePub、Amazon Kindle形式の課題は、日本語の縦書きに対応していないことと、日本語の電子書籍流通マーケットが存在しないということ。そのため、制作した電子書籍にコピーコントロール機能をつけて売ることが基本的にはできない状況にあるのだ。そのためもあり、出版社はこれら2つの形式にあまり積極的ではない。そのため、各社は独自の電子書籍を日本では展開している。基本的にはシャープが主導するXMDFとボイジャーが提供するドットブックだ。XMDFはマルチメディア化の方向性も打ち出されている。ドットブックのほうは、現時点では文字中心の書籍向きだろう。
XMDFもドットブックも日本発なので、当然縦書きにも対応している。ePubについては、日本から縦書きの仕様追加の動きも当然ある。とはいえ、仮に標準に縦書きの仕様が加わったとしても、それを縦書きできれいに表現できるかは、ePubリーダーソフトの機能、性能に依存することになる。実際、現状でもePub形式のデータをかなりきれいに縦書きで表示できるリーダーソフトはいくつかあったりもする。
中小電子書籍制作会社としては、XMDFとドットブックという2つの日本独自フォーマットもフォローしておくべきなのだが、いかんせんこれらに絡む仕事は下請け的なものも多く、コストととの戦いに陥りやすいので注意が必要だ。現状では、これらに対しては適度な距離感をもってつきあっておくのが得策かなというところだ。現在、総務、経産、文化の3省が音頭をとって、日本独自の電子書籍フォーマットの標準化作業が進められている。1ソースで、複数のフォーマットに対応できるようにするようなので、この動きには注目していきたいと思っている。次回は、リフローしないタイプの電子書籍について、やはり中小制作会社視点で紹介したいと思う。