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はやぶさの危機は日本の将来の危機

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みなさん、「はやぶさ」を覚えていますか?
60億km、7年もの歳月をかけ、様々なトラブルに見舞われ、満身創痍ながらも昨年6月に地球へ帰還した小惑星探査機「 はやぶさ」。
もちろん、みなさん、覚えてますよね。

今年の10月には、竹内結子さんが主演で映画(20世紀フォックス「はやぶさ/HAYABUSA」)にもなりました。
来年の2月と3月にも、東映、松竹から、相次いで、映画の公開が予定されています。
東映の「はやぶさ 遥かなる帰還」は、渡辺謙さんがはやぶさのプロジェクトマネージャーの川口淳一郎教授の役、松竹の「おかえり、はやぶさ」では、藤原竜也さんが新人エンジニア役で主演します。

なぜ、同じ題材で、3本も映画に!?
と思いますよね。

東映作品の主演、渡辺謙さんは、

震災によって、日本という国が足踏みするなか、少し背中から押してあげる、「はやぶさ」は、そういう思いを届けられる映画

と、お話しているようです。

東映作品のキャッチコピーは、
「絶対にあきらめない」日本の技術力・人間力が世界を変える
20世紀フォックス作品には、あきらめない勇気、松竹作品は、希望をのせて戻ってこい、の文字がドーンと出ています。

「はやぶさ」は、単にドラマ チックに帰還した、というだけではなく、長引 く不況や震災によるダメージを受け ても、誇りを持って、立ち向かって いく、そこに希望がある、そんな思いを伝える力があるのです。

「はやぶさ」は、惑星イトカワから物質の採取(サンプルリターン)に成功しました。
地球重力圏外にある天体の固体表面に着陸してのサンプルリターンは、世界初です。
他にも、イオンエンジン3台同時運転、イオンエンジンによる地球スウィングバイ(地球の重力を利用して、方向や速度を大きく変更する技術)など、世界初の快挙をいくつか成し遂げ、間違いなく、この分野では、世界をリードしています。

ところが、その後継探査機である「はやぶさ2」が大変な危機に直面しています。
重要度が低い、という信じられない評価を受け、大幅な予算圧縮を求められているのです。

「はやぶさ2」のミッションは、「はやぶさ」と同様に小惑星からのサンプルリターンです。
今度の探査は、太陽系が生まれた頃(今から約46億年前)に存在していた小惑星「1999JU3」、有機物や水が含まれていると考えられている天体です。太陽系の誕生、生命の起源に迫る成果を狙うものなのです。
地球と小惑星との位置関係から、打ち上げ時期は限られ、2014-2015年の打ち上げを見送った場合、次は数年先になってしまいます。
2014年打ち上げまであと3年しかありません。
予算の関係で、製造が進まなくなり、2014-2015年の打ち上げが不可能になると、同様の計画を持つ米国に先を越されてしまう恐れもあります。

初代「はやぶさ」は小惑星からのサンプルリターンの技術を実証する実験機。これから、本格的な小惑星探査が始まるところなのです。
ここで、「はやぶさ2」打ち上げ中止となってしまうのは、ようやく、世界をリードする技術を身に着けたスポーツ選手が、オリンピックを目前にして、参加できなくなってしまうようなものです。

この危機的状況に、元「はやぶさ」のプロジェクトマネージャの川口淳一郎教授が見解を公表しています。


ぜひ、全文を読んでいただきたい、と思います。

この中で、川口教授は、日本の目指す方向について、次のように書かれています。

我が国のこれまでの産業・経済成長は、製造の国であることに依っていた。しかし、それが幻想で、いつか限界に来ることはうすうすと予見されていたはずである。近隣諸国は、かつての我が国と同様に、比較的低廉な労働力で高品質の製造技術を手にし、大きな経済成長を遂げている。しかるに、我が国では生活水準の向上、福祉レベルも上昇しているため、かつてと同じ方針で競争力が得られるはずはない。製造の国に脱皮し、転換していかなくてはならないのだ。新しい技術、新しい製品、そして新しいビジネスイノベーションを発信していかなくては、この国に競争力の復活はおろか、未来も展望できまい。
本当にそう思います。 多くの人、そして政治家だって、そのことに気が付いているはずです。

そして、はやぶさの成果については、

はやぶさ初代が示した最大の成果は、国民と世界に対して、我々は単なる製造の国だったのではなく、創造できる国だという自信と希望を具体的に呈示したことだと思う。

と書いています。
そうなのです。この自信と希望を与えることができるから、「はやぶさ」は、この時期に、3本も映画化されるのです。
自信も希望も持たずに、耐え忍ぶだけでは、未来はありません。
日本の独創性、創造性の象徴である「はやぶさ」を評価せずに、日本はどうやって競争力を復活させるのか。
「はやぶさ」の危機は、日本の将来の危機でもあるのです。

さらに、震災復興について、川口教授は、次のように書いています。

震災の復興が叫ばれている、その通りだ。即効的な経済対策にむすびつかない予算は削減されがちである。しかし、耐え忍んで閉塞をうち破れるわけではない。
なでしこジャパンのワールドカップでの優勝、それは耐え忍んだから勝てたのか?
そうではない。それは、やれるという自信が彼女らにあったからだ。震災からの復興を目指す方々に示すべき、もっとも大きな励ましは、この国が創造できる能力がある国だという自信と希望なはずなのだ。

最後に、広く一般の協力も求めています。

はやぶさ後継機(はやぶさ-2)を進めることに政府・与党の理解を期待したい。
この文章をお読みになった方々から、草の根的であっても、それぞれの方法であってでも、政府・与党にメッセージを出していただければと思うものです。(元「はやぶさ」プロジェクトマネージャ、川口淳一郎)

様々なトラブルに見舞われながらも無事帰還した初代「はやぶさ」のように、信じる人たちの思いで、この危機的状況を乗り越えることを望んでいます。

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