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計測できそうでできない多くのこと。エンピリカル(実証的)アプローチで。

スバルEyeSightの開発の20年の道のり、支えになったことを開発の中心人物に伺った

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スバルの運転支援システムEyeSightは自動車に搭載した2つのカメラからの画像にある物体を認識し、一定の速度以下で走行している際にはブレーキをかけて衝突を回避します。研究段階を含めると開発に20年かかったそうです。

以前に本ブログでも紹介しましたが、最初は自動車に2つのカメラを取り付けて、植え込みに向かって走って物体を認識できるかどうかというところからはじまったそうです。実用化に向けて様々な光の当たり方、気候条件、路面の条件を試したそうです。特定の条件で期待通り動かないことがあったり、サプライヤの変更が必要になったり、初期バージョンはなかなか売れなかったりとたくさんの困難が伴ったそうです。

規模や種類が全く異なるのですが、私がエンジニア時代にはじめて作ったサービスも新しいことが多く、想像以上に基本的、雑多なところから始めなければなりませんでした。EyeSightの開発はおそらくそれとは比べものにならないくらいすごいのでしょうが、何もないところから作り上げていく作業や試行錯誤は途方もなく、途中で何度も辛い思いをされたのではないかと想像します。

EyeSightの開発の歴史は@IT オートモーティブの記事にしていただいています。記事化のインタビューの際に私も同席させていただきました。帰り際、樋渡氏に「なぜこんなに困難な中、研究開発を続けられたんですか?」と質問しました。答えは「クルマが物体を認識して止まるなんて、できたら絶対におもしろいに決まってる。その技術を作って世に出したかった」そして「自分が出ているテレビをみて(同技術でテレビのドキュメンタリに出演されたそうです)、私もやりたいというエンジニアが入社してきた」と回答してくださいました。

おもしろそうな技術を世に出すため、あきらめなかったというのは当たり前のようでいて、実際にやろうとすると相当な困難を伴う作業を実施し、批判を受入れ、説得し続け、状況や環境の変化に対応し、目標をイメージしながら自分を励まし続けたことを意味します。ただおもしろいというレベルではない努力があったと思います。

そして、そういうふうに積み上げていける方であっても「自分もやりたい」という若手に大きく動かされることが、私にとっては印象深かったです。

私は大学研究者なのですが、この職業のいいところの一つは、様々な優れた方とお会いし話をさせていただける機会を与えられることだと思っています。私が一般的なエンジニアだったなら、樋渡氏をはじめとして優れた方々とお会いできる機会は与えられなかったと思います。

これまで大きな困難を乗り越えた方に共通する、大らかさと精緻な部分の独特のバランスとアグレッシブさを感じています。樋渡氏とお話したときも同じことを感じました。

ソフトウェア品質シンポジウム2012の初日の基調講演は樋渡氏にEyeSightの開発に関して、ステレオカメラによる物体認識のためのソフトウェア、ハードウェアの紹介、ソフトウェアの品質保証における試行錯誤やテストの方法、そして、長期にわたる研究開発活動の維持、動機付け、その上での苦労や教訓をご講演いただきます。

9/13(木)の10:00~11:20で東洋大学(東京都文京区、最寄り駅: 三田線白山駅)です。シンポジウムの参加申込みはこちら(ギリギリまで受付けます)。ご講演の詳細はこちら

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