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計測できそうでできない多くのこと。エンピリカル(実証的)アプローチで。

本当のことをうまく伝える

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マスコミに属する記者の方の意見として「本当のことを言う」という記事が日経ITProにある。マスコミへの批判のこと、テレビ番組の質の低下、米国人ジャーナリストが語る本当のことを言えない環境を作ってしまうとダメになってしまうという話等があり、うなづけることが多い。詳細は記事を参照いただきたいが、(マスコミに限らず)本当のことを言い続けなければならないという前向きな話だ。いい話だと思う。

1点気になったことは、本当のことを言うことが、なんとなく辛らつに事実をつきつけることのように読み取れてしまうことだ。真実を伝えるか、そうでないかという二者択一のように読めてしまう。私は真実を伝えながらも、上手な方法でそれを伝えれば、必ずしも批判にはならないと思っている。失敗事例を蓄積して次の成功に活かしたいと思っている企業は多く、そこでは失敗を報告することにペナルティを与えない、失敗を共有できる雰囲気作りことによって、次に活かせる失敗事例を積上げている。本当のことをうまく伝えたりウソをつきにくい環境づくりに成功しているといえるだろう。私が専門の1つとしているソフトウェアレビューでも、誰かが作ったものに含まれる欠陥を別のレビューアが指摘する。指摘の内容がよくても指摘の方法が悪いと雰囲気が悪くなってしまう場合がある(ここ(本ブログの過去エントリ)で書いた)。逆に指摘がうまいと、感謝もされるし品質も上がるだろう。

ソフトウェア開発においては、本当のことを言ったり、失敗を積み上げていく環境への取組みは発展途上と感じることが多い。ソフトウェアタグというソフトウェア開発中に収集した種々のデータ(工数消化、規模遷移、時系列の品質データ)を記録していくためのフォーマットがある(詳細はこちら(文部科学省StagEプロジェクト)から)。これを真正面からソフトウェア開発企業に紹介すると「顧客の追及をみすみす呼び寄せるようなものだ」という反応もあるそうだ。うまく使おうと考えてくださる方も多く、プロジェクトマネージャ向けのカンファレンスでは特によい反応をいただている。

本当のことを伝えると「なぜそんなことが起きるんだ。ちゃんとやれ」と言われてしまったり、価格交渉されてしまう等、不利な立場に立たされると考えるからだろう。普段、顧客が理解を示さない環境で本当のことがいえなくなってしまっているのかもしれない。あるいはそのように想像してしまっているだけなのかもしれない。他にも理由があるのかもしれないし、自分たちの手で作ったものでなければ、どうも使う気になれないということかもしれない。

ソフトウェアタグというソフトウェア開発の本当のことを顧客や上司に伝える手段を与えられたとき、ご自身はどのように使われるだろうか?

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