英エコノミスト誌が見つめるハーバード・ビジネス・スクールのインド人学長~「危機の後のケース・スタディ」~(2)
またノリア氏にはHBSにイノベーションを起こす、という情熱がある。その一つが学校をよりグローバル化していくことだ。その象徴として、彼が学長になって最初にやったのが、ビジネスのホットスポットを回る世界ツアー。さらには、学校の教育方法のイノベーションも求めている。1920年代以降、HBSの学生は紙のケース・スタディを通じてビジネス上の決断について学んできたが、新しい学長は、学生に生きたケース・スタディ(live case studies)を経験してもらいたいと考えている。例えば、アメリカ中西部やムンバイの企業で実際に働く、など。学生には、汗水たらして、泥んこになりながら、学んでほしいと思っているのだ。
実はこうした「イノベーション」は、すでに他の学校で行われている。多くのヨーロッパのビジネススクールはHBSよりずっとグローバル化しているし、「生きたケース・スタディ」もずいぶん前から教育プログラムに組み込まれている。
とはいえ、HBSが変革に取り組むことの影響力は大きい。HBSが行うことにより、よいアイディアが実際に社会に根付くことになるからだ。人はスター教授の言うことなら耳を傾けるし、HBSのケース・スタディに書かれたことは、多くの場合、広く社会に受け入れられる通例となる。究極的にはアウトサイダーであるノリア氏がリーダーになることで、HBSにおいて気運が高まりつつある改革はもっと進むであろう。
20世紀はアメリカの世紀であったが、21世紀はおそらく違う。必然的にHBSは世界のトップであり続けることが難しくなるだろう。しかし、考えをはっきりと明確に述べるインド系アメリカ人をトップに据えたことで、HBSは少なくとも、取り組まなければいけない課題の大きさをきちんと認識していることを示した。
★★★
さすがThe Economist。私が聞いたり、肌感覚で感じたりしていることの通りだ。おそらく、HBSのコアのメンバーにちゃんと取材をして書いているのだと思う。HBSに対する評価や認識も客観的だし。
目下の足元の課題は、学校としてグローバル化を推進する動きの中で、ちゃんと日本も含まれるようにできるか、ということだ。学長就任直後の世界ツアーでは、日本は見事にすっとばされた。カナシイ。
でも、嘆いていても仕方がない。私にできることは、とにかく丹念に先生のニーズと合うような日本企業を探し、売り込み、日本のケースを一つでも増やすこと。そして、「日本リサーチ・センターと一緒に働いたら、とても楽しかったし、質が高いものができた。日本はご無沙汰だけど、そろそろ日本のケースを書いてもいいかな」と思ってくれるような先生を一人でも増やすこと。最近、ちょっといい兆しが見えてきたし。よし、がんばろう。