オルタナティブ・ブログ > ボストンと東京のあいだで >

ハーバードビジネススクールの日本スタッフとして働く中で、気づいたこと、感じたこと、考えたことを、ゆるゆるとつづります。

「HBSミーツ東北」第四日目:果樹園で「フクシマ」を超えて人と人としてつながる(1)

»
昨日で3月11日から2年。黙祷をしながら、HBS@東北日記が止まっていたことをふと思い出す...ということで、再開です。もう2ヶ月経ってしまいました。


★★★

1月14日。東北てんこもりウィークエンドの最終日。東京が大雪で大変なことになっていたが、当然東北も大雪。

今日は、被災地の事業者にお話を伺い、それをもとに学生がビジネスについての提案を行うReal Market Labという企画の日だ。30人の学生が半分ずつに分かれ、福島の果樹園「あんざい果樹園(あんかじゅ)」と南三陸の農家「小野花匠園」へと南北に分かれて向かう。私は、あんかじゅへ行くチームに同行した。


今回のプログラムの企画を担当することになったとき、どうしても実現したかったのが、原発事故の影響を受けている福島への訪問だった。津波は多くの人の命、そしてハード・ソフトの両方の生活の基盤を奪った。でも、東日本大震災とは、こうした自然災害に加えて、人の考え方、社会・産業構造が絡まりあって起こった原発事故もあわせて考えないと、全体の像が結ばれない、と思っていた。

HBSの学生を岩手・宮城だけじゃなくて、福島にも連れて行きたい。学校側とも話をして「原発に近づき過ぎないならいいよ」という了承を得た。


大学時代からの友人でソフトバンクの孫正義氏が出資する東日本大震災復興支援財団の専務理事を務める荒井優さんが、特に福島の人々に対して心を砕いていることは知っていた。

彼の紹介で出会ったのが、福島市のちょっと郊外にある「あんざい果樹園(あんかじゅ)」のお父さんとお母さん、そして果樹園の中にある「りんごハウス」の運営をしている木下真理子さんだった。

震災前は、お父さんとお母さん、長男夫婦、次男夫婦の計11人の大家族で果樹園に住んでいたが、子供たちの健康のことを考え息子夫婦は移住、今はお父さんとお母さんの二人だけ。

福島市のフリーペーパーdip(現在休刊中)の編集長をしていてあんかじゅとも仲のよかった真理子さんが、息子家族の移住で空いてしまった一軒家を「りんごハウス」として、地元の人たちのためのイベント、外からやってきた人たちの宿泊施設として、切り盛りしている。


10月ごろ、初めて彼らに出会ったとき、「こんなにも美しく豊かな生活を日常として生きている人たちがいるのか」と衝撃を受け、そしてその彼らが営んできた美しい生活とネットワークが原発事故の後断ち切られてしまった哀しみを思い、でも少しずつまた違う形で日々を積み重ねていくその姿に感動した。

ぜひ、HBSの学生と再訪したい、という相談にも、前向きに応えてくださり、今日につながる。


★★★

朝10時15分。15人の学生たちとともに、雪で真っ白なあんざい果樹園に到着。真理子さんがあっためておいてくれたりんごハウスの2階にどどっとあがりこむ。りんごハウス初めての海外からのお客さま、だったそうだ。

2013-01-14 12.56.55.jpg
(りんごハウスの二階)

最初にお父さんからざっくりとあんかじゅの話を伺った。

桃、なし、りんごを育て、ずっと直販で直接お客さまに売ってきていたこと、原発事故のあと1年間は線量が高くてとても出荷できなかったこと、国や自治体からの支援はない中で自分たちで調べて除染作業を行い測定器を買って果物の線量を測定していたこと。

2年目になり基準値よりもはるかに低い値となり、まだまだ少ないが再び売れ始めていること、でも震災後東京からいろんな人がやってきて手伝ってくれたり東京でのイベントを企画してくれたりしてとてもうれしいということ...


その後、外に出て果樹園をみせてもらう。梨ともも、そしてりんご畑。次男が「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんから教えを請いながら育てていたオーガニックりんごは、原発事故で栽培中断。まだ売れるほどの質にはなっていなかったため、せっかくなった実は収穫されないままだ。

たわわになったりんごが雪をかぶった姿は本当に美しかったけれど、その美しさは事故によって潰えた夢でもあった。

2013-01-14 11.39.04.jpg
(雪をかぶったオーガニックりんご)

...と、感傷に浸っていたら、いきなり雪合戦がはじまった。お父さんもふざけ出して「雪だまの中にりんごいれたらいいぞ」とか学生に悪知恵を授けたりしている。このあたり一切通訳なし。お父さんのキュートさとたくましさがまざった人としての魅力が、言葉を超えてひしひしと学生に伝わっているのがわかる。降りしきる雪にも負けず響く笑い声。


直売所はシンプルながらおしゃれな内装で、おいてあるパンフレットもセンスにあふれている。私は、ある学生から「Mayuka、日本の果樹園って、みんなこんなナイスなものなの?」とぼそぼそと聞かれ、「いや、ここ、スペシャル」とぼそぼそと答えたりしていた。

元陸軍のガタイの大きな学生は、お父さんが剥いてくれたりんごを食べて「このりんごは、今まで僕が人生で食べたりんごの中で一番美味しい」と、かわいらしくつぶやいている。

やはり、ここ、あんかじゅの素敵さは、世界級なんだね。(続く)

2013-01-14 11.30.34.jpg
(お父さんが剥いてくれた「人生で一番美味しい」あんかじゅのりんご)
Comment(0)