学校運営は立派なビジネス。淘汰されていくビジネススクール
最近、母校のビジネススクールのイベントなどのお手伝いをしている中で、ここ3年でビジネススクール業界が大きく変わってきているということを知り、とても興味深かったので、ブログに書いてみることにしました。
「MBAなんて何の役にも立たない」と批判しても、すでにあなたの知っているビジネススクールとは違うものになってきているかもしれません。
実際、アジアなどの新興国で新しいビジネススクールが多数立ちあがる影で、米国の学校で進化できなかったところは、今、どんどん淘汰されているようなんです。
ま、当然といえば当然ですよね。学校運営もビジネスですから。その時代の顧客ニーズを捉えられなければ退場するしかありません。
特に、留学生は、会社から離れなければならない2年間のオポチュニティコストに加えて、高額な学費が必要になるわけですから、ROIを見る目が厳しくなるのも当然のことです。
しかしながら、昨今のインドや中国、韓国から米国に大量の留学生が押し寄せているという話を聞き、追い風が吹いていて景気の良い業界だなー、なんて呑気に考えていた私にとっては、一方で、かつて名の知れた学校が経営難という話は少々ショッキングでした。
大きな傾向としては、下記のような流れがあるようです。(※聞いた話で、裏付けとなるデータがありません)
・米国でも1年制プログラムが増加
→これはまさにROIにも関わるところですが、これだけ世の中の動きが早くなると、社員を派遣する会社としても、2年間も戦線を離れられるのは厳しい、といった事情がひとつ。また、20代半ばの留学生の数が増えているため、5年程度の社会人経験では、2年間の生活費含め1000万円以上の預金などあるわけもなく、また、5年しか働いていないのに、いきなり2年会社を離れることへの心理的抵抗などもあるとか。
・より専門性の高いマスタープログラムの増加
→実はビジネススクールの大きなライバルになっているのが、金融やエンジニアリングなど、より専門性を高めたマスターコースだとのこと。ビジネスに直接役に立たないMBAに行くくらいなら、仕事に直結する専門性を高めた方がずっといい、っていうのはそのとおりですね。というわけで、ビジネススクールとしては、何とかして「ビジネス実践に役立つ」ことを証明していかなくてはならない状況になってきました。
・国際的な経験を積めるロテーションプログラム
→グローバルビジネスへの対応という要請が高まるにつれて、アメリカに本キャンパスはあるけれど、別の国にもキャンパスや提携の学校があって、一定期間、"外国"で現地のビジネス課題に取り組むことで、学生に国際経験を積ませようという試みが広がっているそうです。私の行った学校は、私が通った2009年当時は、上海とドバイにロテーションできるキャンパスがあったのですが、今では、それが、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロンドン、サンパウロまで増えていました。たぶん数年以内にはアフリカにもできるんじゃないかという気がしています。
・ チームワークやプレゼンテーションをより重視する傾向
→過去、日本が良かった時代は、日本型経営がもてはやされたことからも分かるように、その時々で業績のよい会社のストラテジーを覚えて真似しても意味がありません。つまり経営学という学問をしたって、実際のこれから先のビジネスの役には立たない。そこで、今は、知識よりも繰り返し練習することでしか身に着かない「ソフトスキル」を重視する傾向があるようです。その1つがチームワーク。利己主義的になりがちだったかつてのMBA生の反省から来てるのかもしれませんが、チームで結果を出す能力、特にそれが国籍がばらばらのチームという、自分のcomfort zoneの外にある環境でのチームワークにより、人は初めて成長できる、とのことでした。
・ 教授がアカデミックよりビジネス実践者へ
→留学生のダイバーシティも広がって行く中で、それを仕切る教授が、「アメリカしか知らない」もしくは「ずっとアカデミアにいる」では、学生は満足できるはずがありません。ハーバード大学などお金もブランド力も高い学校は、著名なビジネスパーソンを教授として取り込むことができ、ますます優秀な学生を獲得できる一方、資金力に乏しい学校は、なかなかビジネス界から、魅力ある人材を引っ張ってこれないため、学生も減り、さらに収益が悪化して、という悪循環に陥って破綻に追い込まれてしまうようです。
・ 学校のビジネスストラテジー
→これは私が感じたところですが、今や、世界中から優秀な学生を獲得しようとする学校のマーケティング活動はかなり進んでいるように思います。それこそ4年前とは大違い。Facebookなどのソーシャルメディアは当然のこと、結構クリエイティビティが高い動画を早いペースでどんどんリリースしていたり、私の母校でも、卒業生のためのスマートフォンアプリまで誕生していました。TVCM、有名企業とのコラボレーション、メディアが発表するビジネススクールランキングへのロビー活動、著名な教授の獲得、新しく伸びそうな国へのキャンパスのオープン、プログラムの多様化、マーケティングイベントの開催など、短期間に次々に次の一手を打ち出しているのを見て、まさにビジネススクールの運営というのはビジネスのプロによるれっきとしたビジネスなんだと感じました。
学校運営って保守的で動きが比較的スローで、というイメージがありましたが、それが全く間違っていたことが良く分かりました。いまや、伸びている業界でありながら、激しい変化にさらされており、グローバル市場での、生きるか死ぬかの戦いが繰り広げられています。マーケティングスペシャリストとしても、十分に楽しめる変化に富んだチャレンジングな業界だと思いました。
まだまだ、ここに書ききれなかったことがあるので、またそれは別の機会に。