ソーシャルメディアのちょっと怖い話
昨年の話になりますが、母校のビジネススクールがこれから受験を考える人向けに、東京で実際の授業を実体験できるというイベントを開催していたので、私も卒業生として参加してきました。
テーマは「クライシスコミュニケーション」。
エクソンバルディーズ号原油流出事故(1989年)を起こしたエクソン社と、皆さんの記憶にも新しいメキシコ湾原油流出事故(2010年)を起こしたBP社の対応を比較したのですが、同じような原油流出事故で、なおかつBP社は過去のエクソン社のバッドコミュニケーションを十分研究し、教訓にしたにも関わらず、コミュニケーションにおいては数々の失態を犯してしまうというもの。
何が悪かったのか?というと、書ききれないほどたくさんあるので割愛しますが、ここで、1989年と2010年とでは、私たちを取り巻く環境が大きく変わっていることに改めて気づかされました。
今やマーケティングツールとしてかなり浸透してきた、ソーシャルメディアが、こういったクライシスの場面では、より強力なパワーを持って、情報を瞬時に世界中に拡散してしまう。これは事故を起こした会社にとっては、もう悪夢ですね。
なぜ、この事件が1989年に比べて、より鮮明に記憶に残ってしまったかという一つの理由に、オイルが流出しているライブ映像が、CNNなどのメディア、YouTube、ネットで流れ、そのショッキングな映像が視聴者の脳裏に残ってしまったことがあるのではないかと思います。(他にもオイルにまみれた鳥や魚の社員なんてのも随分出回りましたね)
私自身、当時それほどニュースをウォッチしていなかったので、責任範囲だとか、賠償だとか、結局どう収束したのかとか、そういったことはほとんど記憶にないのですが、それでも、暗い海底から黒い雲のようなモクモクとしたオイルが、事故後何日経っても流れ続けている映像だけは鮮明に覚えています。
BP社としては、隠しだてせず、情報を国民にオープンに、という姿勢だったのだと思いますが、事実がどうであれ、あのビデオが一瞬のうちに世界中に与えてしまった強烈な”印象”というのは、狙ったものとはだいぶ違う結果だったのではないかと思います。
ソーシャルメディアをマーケティングに活用しない、というのは、それはそれで一つの経営判断であるとは思いますが、積極的に活用しなくても、情報は駆け巡るのだ、ということは肝に銘じておく必要があるでしょう。
また、ソーシャルメディアの特長として、どんなに企業が雄弁に語っても、HPでしっかり釈明しても、1枚の写真、数十秒の動画が、説明なしに出回った時に、そこから人がどう感じるか?には常に敏感である必要があるのだと強く思いました。
この体験授業の結論としては、クライシスコミュニケーションにおいて最も大事な要素は、(科学的)事実ではなく、情報の受け手が持つ印象、感情を中心に考えること、だということだったのですが、私としては、ソーシャルメディアの怖さが心に残った授業でした。
実際に講義の後には、ソマリア沖で海賊に襲われた船舶会社の経営陣という設定のロールプレイをしましたが、あらかじめ準備しておかないと、その場で刻々と変化していく情報への対処なんて無理な話だ、とつくづく実感しました。