ボーカロイド利用規約について思うこと
『初音ミク』や『鏡音リン・レン』などの歌声合成ソフト(ボーカロイド)は、ヤマハの開発した歌声合成エンジンVOCALOID2に、クリプトンの製作した音声ライブラリをセットにして販売しています。したがって、その利用規約も2階建てとなっています。
■[VOCALOID]使用許諾
http://d.hatena.ne.jp/melt_slinc/20070917/p2
まず、ヤマハが設定しているVOCALOID2の利用規約では、「公序良俗に反する歌詞を含む合成音声を公開や配布すること」の禁止が謳われており、また、商用カラオケや着メロやなどでの使用は、ヤマハの許可が必要としています。
さらに、クリプトンの設定している初音ミクの利用規約では、上記の点のほかに、映像作品のキャラクターが歌っているようなかたちでの使用には許可が必要、VOCALOIDや初音ミクやバーチャル・シンガーなどを前面に押し出したかたちでの使用には許可が必要、といった項目が加えられています。
そもそも、なぜ、このような使用許諾が、こまかく設定されているのかを考えてみると、おそらく既存の歌手や声優など、「声」を仕事にしている人たちへの影響をできるだけ小さくしようと配慮したためではないかと、推測できます。
たとえば、一般の人にとって音楽というのは、「歌手」+「楽曲」というかたちで認識されています。しかし、「初音ミク」のユーザーが、VOCALOIDや初音ミク、あるいはヴァーチャル・シンガーといった「新奇性」をセールス・ポイントにして、既存の楽曲を、次々にCDや着メロ/着うたにして販売した場合、その楽曲を持ち歌とする歌手が困るので、それは制限をかけたい、と考えたのではないかと思います。
商用カラオケのコーラス、あるいは、映像作品の歌声などに関する制約も、声を仕事にしている人たちへの配慮ではないかと思います。もちろんボーカロイドによって、仮歌を歌う人たちの仕事は失われるかもしれませんが、そのかわり、作詞作曲はできるけれども、自分では歌えない、あるいは、歌手を見つけられない人たちの才能を掘り起こすことには貢献していると言えます。要するに、この利用規約は、音楽ビジネス全体の得失を考えて設定されたのではないかと思います。
ヤマハにとっての音楽ビジネスの対象は、楽曲を販売する音楽出版だけでなく、ヤマハの楽器を利用するプロやアマチュアのミュージシャン、ヤマハの音楽教室の生徒、ヤマハ主催のコンサートにくるファン、そしてヤマハのDTMソフトやボーカロイドなどのユーザーなど、とても幅広いものです(音源用LSIも扱っています)。そして、その立場からすると、VOCALOIDエンジンの技術開発は進めたいけれども、既存の音楽ビジネスへの影響はできるだけ小さくしたい、という配慮をせざるをえなかったのではないかと思います。
「公序良俗」に関する規約が設定された理由もいろいろあると思います。たとえば、「初音ミク」や「鏡音リン・レン」を使って、童謡など、子ども向けの楽曲を歌わせ、それを浸透させる、つまり、将来のDTMやVOCALOIDのユーザーを掘り起こす、という音楽業界全体の得失を考えると、やむをえないことなのかもしれません(もちろん規約の濫用はすべきではないと思います)。
おそらく音楽業界に関係ないソフトウェア・メーカーが、VOCALOIDエンジンを開発していたら、こういった利用規約は設定しなかったのだろうと思います。音楽業界全体にとって、どちらがよいのかは、わかりませんが。