【書評】エコノミストのつぶやき――『日本はなぜ貧しい人が多いのか』
原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学』(日本経済新聞出版社)
本書は、ここ数年にわたって、主にジャーナリズムの世界で騒がれてきた数々の経済・社会に関わるトピックを、エコノミストの立場から、入念なデータの分析を基に検証していく。意外な事実に気づかされる読者も多いと思う。
表題になっている「日本はなぜ貧しい人が多いのか」については、
《日本にはジニ係数に比べて相対的貧困率が高いという問題がある。相対的貧困率とは、所得が低い人から高い人を並べてちょうど真ん中にある人の所得(中位所得)の半分以下の所得しかない人の比率である。》(p.99)
と指摘する。著者は、日本の相対的貧困率が高い理由として、「個人への所得再配分が少ない」(p.101)ことをあげる。日本は、児童手当、失業給付、生活保護などの社会保障給付が他の先進国に比べて少ないため、最終的な可処分所得で不平等が大きくなり、相対的貧困率も高くなるという。
もちろん本書の読みどころは、統計データの分析によって、さまざまなトピックを検証していく点だが、それに加えて面白いのは、著者がそれぞれのコラムでぼそっとつぶやくように指摘するところだろう。
《アメリカではお坊ちゃま同士の競争があるが、日本の地方ではそれがない。二世政治家の実家を見ると、豪邸の場合にはその周りに家来のような家が並んでいる。それが、日本の政治家のレベルを引き下げているのではないだろうか。》 (第1章 1.日本の地方にはなぜ豪邸街がないのか)
《ストライカー産業をどう育てたら良いかは、実は分からない。分からないことに予算を使うべきではない。むしろ、ストライカー産業のコストである投入産業(運輸、通信、電力、金融、工業団地、工場用水などを提供する産業)の効率を高め、そのコストを引き下げてはどうだろうか。》 (第1章 2.日本にはストライカーがいないのか)
《ヨーロッパの福祉国家は、まだ理性を失っていない。少なくとも、イギリスとオランダは分かっている。働いている人々から税金と年金保険料を取り立てれば、老後が安心になるわけではないことを分かっている。》 (第3章 11.増税分はどこに使うべきか)
《なぜ日本経済は大停滞に陥ってしまったのだろうか。……労働生産性の低下ではなくて、労働投入が減少したことが停滞の理由である……デフレで実質賃金が高止まってしまったことが労働投入減少の大きな理由である》 (第5章 4.「大停滞」の犯人は見つかったのか)
《北海道の場合、拓銀破綻前には全国よりひどい不況で、破綻後に全国並みの不況に「回復した」という事実から判断すると、破綻によって貸しはがしがなくなって、むしろ良かったということになる。》 (第6章 6.金融機関の破綻は負の乗数効果を持つのか)