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エンタープライズコラボレーションの今と今後を鋭く分析

「インターネットはいかに知の秩序を変えるか?」は情報の交通整理を考えるのに良い本だ

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 連休中なので仕事的に読まないといけない本が溜まっているのをなんとかしようと順番に読んでいる。で、やっと数冊読み終えた。その中のデビッド・ワインバーガー著「インターネットはいかに知の秩序を変えるか?」(エナジクス)の紹介。

 最近の本業でのコンサルティングで情報探索や情報配信方面よりも情報整理や情報陳列方面のウエイトが拡大傾向な私にとっては、とても刺激的な本である。頭の整理の機会といくつかのアイデアを貰うともに、本書の中の気の利いた言い回しは今後いろいろと使えそうということで、マーカーと付箋だらけにしてしまった。

 ワインバーガー氏は情報整理の発展過程を3段階に分けている。整理の第一段階とは物質そのものを整理する段階(例:ナイフやフォークを戸棚に整理してしまう)、第二段階は情報を紙やカードといった物理的媒体を使って整理する段階(例:リンネの植物分類やデューイの図書分類)、そしてデジタル時代の第三段階ではもとの情報をありのままで整理することが出来るとしている。
 本書はこの整理の三段階の発展の歴史を軸に、アリストテレスなどの過去の偉人たちによるこれまでの整理の試みや分類の考え方がインターネットの普及によってどう変って来ているかを 各種の例を用いて紹介している。Flickr、Amazon、Wikipedia、del.icio.us、Digg、Reddit、ソーシャルマップ(本書では社会的な地図と訳されてしまっている)などが例にでてくる。具体的な整理と分類の手段としてはタギングが中心ではあるが、昨今のインターネットが情報整理の分野で影響したことを包括的に紹介してくれている。

 著者は整理が第三段階にくると、第二段階までは専門家がやっていた整理を我々が自分自身で、さらには皆と一緒にやれるようになり(一章)、第二段階までにあった整理すること=特定の配列に並べることという制約も排除される(二章)としている。そしてさらに、第一段階や第二段階での整理では、知識の全体をトップダウンで俯瞰して形を持っていることが前提条件だったが第三段階では俯瞰図なしに種々雑多な有用性を発揮でき(三章)知識は形を持たなくなる(四章)とする。このあたりは実に興味深い。
 五章にはこの第三段階の整理でとるべき4つの戦略的な原則として、①フィルターは入り口でなく出口で②葉っぱは出来るだけたくさんの枝にぶら下げよ③すべてはメタデータであり、すべてはラベルを付けられる④管理あきらめよ、を挙げていた。

 六章以降にも面白い話題がいくつも出てくるが、以下私が気に入った(気になった)部分だけを箇条書き形式で引用しておく。

  • 葉っぱを明確に識別できる場合、一意的に決まる識別子は、関連する考えをまったくバラバラの状態のままで発展させることを可能にし、個々の葉っぱがどんどんと賢くなることを可能にする。そのような場合、IDは意味を持たな方が、種々雑多状態の整理作業を先延ばしにするのに役に立つ(六章)
  • ウィキペディアの教訓の一つは、会話が専門性を改善するということだ。それは弱点をさらし、新しい視点を提供し、アクセス可能な形へとアイデアを押し出すことで実現している(七章)
  • 個人的なタグづけと公開を前提とするタグづけの弁証法的対立は、コンピュータの能力を増強し、明示の基礎の元に暗黙を再構築することで解決出来るかも知れない(八章)
  • 明確な定義がなくても議論の余地がない例(「プロトタイプ」と呼ぶ)を中心とした整備が出来る限り、概念は明確に出来る(九章){この9章に紹介されたエリーナ・ロシュ氏の仮説は非常に面白かった}
  • 印刷物であることは{一部略}トピックの長さに象徴的な意味を持たせるものでもある。{中略}ブリタニカでは長さは重要度の象徴である。ウィキペディアでは長さは興味や熱意の表れである(十章)

 これ以外にも後々でいろんな場面で引用できそうなものがいくつもあった。

 ただ、あまりにも複雑なテーマに取り組んだ為か本書の構成自体があまり整理されていなくてちょっと読みにくい。訳の問題なのか「賢い葉っぱ」とか「含めて延期する」とか直感的には理解できないような用語があるのも残念。私も二度読み直したがまだ理解できていない部分がある。
 本書はことしの3月に出たばかりとはいえ、出版社がマイナーな為かあまり知られていないようだ。インフォメーションアーキテクチャーに興味のある人、司書やWebマスターで情報整理関係の仕事に携わっている人にはお薦めしたい一冊である。

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