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エンタープライズコラボレーションの今と今後を鋭く分析

「企業にとってのニコニコ動画」の舞台裏(2)

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 昨日に続き、ITproでの弊社執筆陣による短期連載「企業にとってのニコニコ動画」の執筆にあたって議論・分析・解説をした内容の断片集。

お題:企業(組織)にニコニコ動画的な場はいらないのか?

  • そうでは無い。企業の中にもああいうゆる~い場はあっても良いのではないか。ああいった試行錯誤が気軽に出来てそれに対するフィードバックが得られるような環境があればイノベーションな試みは推進しやすいと思う。
  • ニコニコ動画そのものではなくニコニコ動画的雰囲気が必要。いまや企業(組織)では成果主義の悪しき運用がはびこっていて評価は相対評価で減点主義にみたいな感じで運用されている。その延長では皆新しいことに挑戦しなくなり他人を助けようともしなくなる。まさにニコニコ動画と逆の場になっている。
  • で、失敗しないところに成功は生まれないということは歴史上何人もの偉人が言ってきていることで、これらがコンプライアンス不況と相まって、そこにいる人たちの閉塞感と組織の将来の絶望感につながっているのではないのか。

お題:ニコニコ動画は救世主なのか?

  • ニコニコ動画自体は、企業(組織)にとっては敵かもしれない。
  • 昔は会社に居残りして(当然残業代なんて無しで)、必死にいろんな事を研究したり、居酒屋で口角泡を飛ばして会社を良くする方法を議論していた人達が、今は家に帰ってニコニコ動画で才能の無駄遣いをしているのだとすると、日本の将来は単なるドワンゴ(ニワンゴ)一人勝ちにしかならない。
  • 最近のプロの参戦なんかを見ていると、企業(組織)が金を払って身につけさせた折角のスキルを、会社の競争力強化ではなくニコニコ動画上で浪費させてしまっているわけで企業(組織)としてはノウハウを無料で流出させているという見方もある。←これこそまさに本来の意味でスキルの無駄遣いと研修費の無駄遣いである(笑)
  • いずれにしてもこういう人達を企業(組織)に呼び戻す仕掛けを考える時期に来たのではないか。

お題:本題。で、そういう場や仕掛けはどうすれば出来るか?

  • それが難しい。それが簡単にできれば今頃こんなBlogを書いていずにもう独立事務所を開いて大儲けしてる(笑)。
  • そもそもニコニコ動画は「仕事じゃないから面白い」という意見や「人為的にコントロールしようと思ったらニコニコ動画だってつまらなくなる」という意見もごもっともだし。ただ、上に出てきた内容がいくつかのヒントになると思う。
  • 場の作り方としては、GPTW(Great Place to Work)的な考え方からすると企業における信頼関係のうち、特に従業員―マネジメント間の「信用」や従業員同士の「尊敬」が大事になる。特に「信用」が無いと、「愛すべき馬鹿」的な柔軟で自由なアイデアは出てこないだろう。{参考:GPTWに関する記事
  • ニコニコ動画ではひろゆきを運営側に迎えることで、2ちゃんねるのようにその場への参加者をリスペクトし守るというメッセージを参加者に暗黙に伝えることに成功した。もし企業(組織)にもそうしたカリスマを持つパトロンがいればその人を旗印に使う方法はありそうだ。ただ、通常の企業(組織)だとある程度公式にこうしたメッセージを発信するか、初期段階でさくらを使って、あえてちょっと羽目を外させてそれをお目こぼしするところを見せるとかそういう演出も必要そうだ。
  • 参加者が匿名か実名かというのは要素の一つでしかないが、参加者へのリスペクトや参加者が不利益を被らないという配慮は絶対に必要だろう。
  • コミュニケーションの促進&アイデアの出し方としては、コンテンツ中心主義が使えそうだ。従来の掲示板やBlog/SNSなんかだと、いきなり「皆で議論しましょう!」とか「会社の雰囲気を良くするために皆で意見を出しましょう!」みたいになるが、「こんな図面ひいてみたけどどう?」とか「こんな提案考えてまーす」のようにまずコンテンツを提示してそれに対してのコメントをきっかけにコミュニケーションを始めさせる仕組みにしてみてはどうか。
  • 後はコミュニケーションの取り方として、ニコニコ動画では作りかけとか稚拙な作品でも「次回に期待」とか「○○を工夫した方が良いよ」のような暖かい前向きなコメントがそえられる。これは参加者の多くが自分自身も職人(作成者側)であり、ものを生み出す苦労を知っていることが理由かも知れない。そうすると企業(組織)内の場としても、当事者意識を持てない評論家的な立場の人は参加させないほうが良い可能性がある。出来上がった商品を売る立場の営業はともかくとして口だけ出して手は動かない企画屋や管理屋を入れる際には審査するなどがあっても良いかもしれない。
  • あとはやはり出てきたアイデアをスピード感を持って試行できる環境が必要だろう。ただこの試行錯誤する環境までをシステム上に実装する必要はなく、試行錯誤はラボ内とか工場でというのもありだろう。ただ試行錯誤した結果を素早く「場」にいる他の皆に報告する仕掛けや、コンテンツ(成果物)をモジュール単位に分割してそれ毎での試行やモジュール間の組み合わせを替えて試行錯誤できるように最初から考慮しておくなどの設計手法の採用がポイントになりそうだ。

お題:企業(組織)の中にはそんな才能を持つ人はいないのでは?

  • ニコニコ動画も最初のうちは「誰がそんなにオリジナル作品を作って登録するのか」などと言われていたがふたを開けてみると結構そういう人は多いということが判った。例えば、DTM関係はかなり昔にブームがあってそのときの人たちが今こぞって参加しているというのはよく聞く話だし、なんでもひと昔前にCGブームというのもあったようであちこちに専門学校などが出来て数十万円の機材を買ってそういう技術を取得した人が結構いるらしい。そういう人たちが今アニメ化とか3D化なんて作品を作っているそうだ。
  • 他にもこういう集団(階層)がいくつかあるようで、こうした人たちがたまたまニコニコ動画というきっかけで同時に世に出てきたのを見て、ある人は周期の違う蝉がある年に大量発生した事件のようだと言っていた。
  • 企業にも業務後に自己啓発としていろんなスキルを学んでいる人や、もともと大学などで学んだ専門分野が今の業務には生かせていない人など才能が埋もれていないとは言えないはずだ。

お題:場の運営サイドとして学ぶべき点は?

  • あの悪評高かった時報もこのところ評判が変ってきている。何かの評価をするときにある程度の時間をかけて繰り返すということは大切だというのには気づかされる。特に時代に対して登場が早すぎたものは、初期段階では受け入れられるのに時間がかかるのでこうして粘り強く様子を見る姿勢は大切だろう。最近ははやりの「選択と集中」を口実に、早すぎる見切りをしがちな企業(組織)関係者は見習うべきだろう。
  • あと元々ニコニコ動画の開発者には「やってみて結果を見てから判断しよう」という姿勢があって、思いついたアイデアはまず実装してみるそうだ。こうした現実主義的姿勢をとることで、大勢で擬問や分析をしすぎて時間切れやタイミングを逸するというような事は防げる。

 以上、2回に渡って、企業(組織)内コミュニケーションやコラボレーションに携わる立場からニコニコ動画における注目すべき動きを捉えたものを意見として羅列してみた。中には、現時点では思いつきに過ぎず練れていない意見も含まれてはいるが、これらをベースに今後より深い分析などが進むことを期待している。

 すでに昨日のエントリーを読んだ彼岸花 さんには「ある意味バトンみたいになった(笑)」(九十九のぶろぐ)というエントリーを書いていただいた。このようにいろいろな方の分析や考察が集まってまた何か新しいことが発見できる事を願ってこの連載とその後の反省を一旦終えたい。

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