【ブックトーク】祖父の軌跡を追いかけて。/『永遠の0』
小学生くらいのころ、祖父母に先の大戦の話を尋ねた覚えがあります(祖父は大正10年、祖母は昭和元年生まれ)。その時は「“南”に行ったけど鉄砲が怖くて逃げ回っていた」なんて風にはぐらかされましたが、、そんなわけが無いであろうことは、今であればわかります。
復員後は普通の会社員として務めあげた祖父ですが、一昨年(2011年)に大往生をしました(祖母は健在です)。やはり、少しでも聞いておけばよかったと思ったのは、久々にこちらを手に取ったから。
『永遠の0』(百田尚樹/講談社文庫)
確か初めて読んだのは2011年の春、手に取った理由は今でも思い出せませんが、その年の6月に祖父が亡くなったことを振り返ると、何か予兆めいたものがあったのかもしれません。読後、「次に帰省したら戦争のコトをあらためて聞いてみよう」と考えていましたから。
祖父の南方戦線との話が本当であれば、所属は陸軍であったと思いますので“零戦”とはなじみは薄かったかとも思います。ただ、どんな内容であれ、我々に祖国を託すために戦った“祖父たちの想い”は語り継いでおくべきだろうと、今更ながらに感じています。
物語は、主人公・佐伯健太郎とその姉慶子が、ふとしたことから自分たちの血縁上での祖父の足跡を追いかけるところから始まります。その名は、アメリカ海軍から“悪魔”とまで呼ばれた零戦パイロットであった“宮部久蔵”、終戦間際に特攻で亡くなったとしか二人は聞かされていませんでした。
そんな祖父と共に戦場を飛び廻った人々に聞き取りをしながら、“祖父たちの物語”は様々な様相を見せながら綴られていくことになります。常に「生きて帰る」という妻との約束にこだわり続けた、そんな宮部がどうして特攻に赴くことになったのか。
“それは私たちの世代では、愛しているという言葉と同じでしょう”
聞き取りで訪問した相手は全てで「10人」、臆病者だったとの人も、優秀な戦闘機乗りであったとの人も、そして、命の恩人であったとの人も、様々に。それぞれの人々が“戦争”をどうとらえていたのかも浮かび上がるようで、興味深く。この辺り、著者の百田さんが一番参考にしたという、『零戦最後の証言(神立尚紀)』をモデルにしているのかなと思います。
そして、最後の10人目に訪れた人物は、、なかなかのインパクトでした。何かを繋いで何かを紡いで、“絆”という言葉と、そして家族を人を“愛する”ということを、強く感じさせてくれる物語となっています。
明日(2013年12月21日)、こちらを原作とした映画が公開されます。それに先駆けての再読でしたが、あらためて、祖父の話を聴いておけばよかったと痛感しています。祖父の手記や写真などが残っているのであれば、それを追いかけるところから始めてみようと、、息子に伝えていくためにも。
どんな思いで戦ったのか、少しでもその欠片を集めておこうと感じた、そんな一冊です。
【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
『海賊とよばれた男』(百田尚樹/講談社)
『祖父たちの零戦』(神立尚紀/講談社文庫)
『英霊の言乃葉』(靖国神社/太陽社)
『きけ わだつみのこえ』(日本戦没学生記念会/岩波文庫)
『靖国への帰還』(内田康夫/講談社ノベルス)
【補足】
ちなみに、文庫版の解説は児玉清さんがされています、たまりません。あと、数年前に漫画化もされていて全5巻、原作を丁寧に再現されていて面白かったです、、最近店頭でもよく平積みされていますね。
そうそう、劇中に出てくる姉に惹かれている新聞記者は、典型的な“アサヒ脳”に描かれていました。この人物について“ちゃんと”映画でも表現されるのかどうか、ある意味で興味深くもあったりも。
余談ですが、今年の本屋大賞をとった『海賊とよばれた男』の中でも、宮部さんが出てくるシーンがあります。フィクションだからこその、クロスオーバーでしょうか。