【ブックトーク】絵に“生命”をあたえるということ。/『楽園のカンヴァス』
美術館、個人的には独りで行くことが多いのですが、いわゆる「美術」に詳しいわけでもありません。それなりに好みはありますが、単純に綺麗だなぁとか、印象的だなぁ、位の感想が関の山です。そんな、よくも悪くも「お気楽な鑑賞」で留めていたのですが、、こちらを読んで、もう少し深く観るようにしようと思いました。
『楽園のカンヴァス』(原田マハ/新潮社)
「絵が、生きている。」、この一言が全てをあらわしていると、そう感じた物語でした。
大筋としては、アンリ・ルソー作「夢」と同じ構図をもつ一枚の絵画の真贋を、二人のキュレーター(学芸員)が見極めるとの流れ。ただし、蛍光X線分析や質量・史料分析などの科学的な手法ではなく、7日間かけて一冊の物語を読み解いていく、ある種のミステリーとも言える手法をとっています。
それを担うのは一組の男女、一人はアメリカ人、ルソーをこよなく愛するニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員・ティム・ブラウン。もう一人は日本人、新進気鋭のソルボンヌ大学院のルソー研究者・早川織絵。そして鑑定の依頼者はスイスの大富豪・バイラー。
始まりは2000年、倉敷の大原美術館で監視員として働いている織絵が、館長室に呼ばれるところから。そこから一気に時を遡り、1983年にスイスはバーゼルで過ごした、「夢」のような7日間の記憶へとつながっていきます。その「ルソーが描き出した楽園」で二人は、20世紀初頭を舞台とした一つの物語と出会います。
これら三つの物語がモザイクのように重なりあって、ページを繰る手が止まりませんでした。読後の余韻も素晴らしく、「永遠を生きる」とは、人の生きざまを、情熱を描くとはどういういことか、と楽園の世界にただ、浸っていました。
例えるのであれば、芳醇なワインのような物語。ミステリーの手法をとりつつも、ロマンスも垣間見えて、主人公の二人にとってはまさに、全てから解き放たれた楽園の7日間でもあったのではないかと、なんとなく。「こんな夢を見た。」なんてフレーズを頭の片隅に思い浮かべながら、「夢をみた」二人の行きつく先は、はたしてどこになりますか、なんて。
何かを生みだすということ、そして発信するということは、その背景にその人の「人生」がありったけに籠められているのだなぁ、、なんて感じさせてくれる、そんな一冊です。
【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
『ギャラリー・フェイク』(細野不二彦/小学館文庫)
『深淵のガランス』(北森鴻/文春文庫)
『楽園』(鈴木光司/新潮文庫)
『文鳥・夢十夜』(夏目漱石/新潮文庫)
『フィレンツェ』(高階秀爾/中公新書)
【補足】
「芸術はその美を知り、かつ独占する能力を持った者のもの」とは『ギャラリー・フェイク』での言葉ですが、なるほどとあらためて。ん、今まで原田さんを知らなかった事をうかつであった、、とは言いますまい。今このタイミングで出会えた喜びを噛みしめようと、思います。
そして、大原美術館にニューヨーク近代美術館、いつの日か訪れて、ルソーやピカソの世界に浸ってみたくなりました。ちなみに著者の原田さん、東京都小平市出身とのことで、以前住んでいたこともあってか、なんとな~く、親近感も持ってみたり、、なんて。
それにしても、、絵画に限らず、文化の発露を楽しむには、それぞれの「文化としての宗教」の素養を身につけておきたいですね、、これもまた「教養」なんでしょうね、、うーん。