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仕事に絡んだ四方山話などを徒然にと思いつつも、読んで興味深かった本ネタが多くなりそうでもあります。

【ブックトーク】今のロシアを支えているモノ。/『甦るロシア帝国』

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 本書は、著者の佐藤優氏がソ連崩壊後の1992年9月から、日本の外交官として初めてモスクワ大学で教鞭をとられた時の経験を横糸に、崩壊前後にまたがって人脈のあったソ連科学アカデミー民俗学研究所との政治思想についての議論を縦糸に、ロシアが近代国家として甦っていく過程の要素が綴られています。文中からは、大学生などのこれから日本を背負っていくであろう若い世代に向けたメッセージを強く感じました。

 “ロシア人の祖国、学問、さらに超越性に対する真摯な姿勢から学んで欲しい。
  そこから日本の復興を、類比の方法を用いて学んで欲しいのである。”

 こう呼びかけているのは、氏が20年前にモスクワ大学で出会った学生達が、復活した今のロシアを支えていると、強く感じているからではないでしょうか。

 『甦るロシア帝国』(佐藤優/文春文庫)

 氏の担当講座はプロテスタント神学であって、それをベースとした論旨の展開には、神学的素養を持たない身としては観念的についていくのが厳しい部分も多くありました。それでも、一つの国家が壊れていく過程とその結果、その後の復活の萌芽が連綿と綴られていく様子に、今の日本では失われてしまった「古き良き価値観」をも感じ、非常に興味深く読み入ることができました。当時、崩壊直後で国家として混乱の極みにあったにも関わらず、次のような資質の強さ、恐ろしさは、、

 “モスクワ大学の学生たちは、エリートとしての自負を強くもっていた。
  そして、自らの能力を、自己の栄達のためだけでなく、
  世のため、人のために使いたいという意欲を強くもっていた。”

 現在、プーチン氏の下で一つの結果、ナショナリズムの煮詰まった「エトノクラチヤ」として実っているようにも見てとれます。

 これだけだと旧来の帝国主義国家としての復興ともとれますが、個人的に興味深く感じたのは、

 “ファシズムに対する耐性をつけるためには知的訓練が必要だ。
  その意味でマルクスの知的遺産が重要だ”

 この観点が氏の講義の軸にあったとの点です。ここ数年、エネルギー危機や経済危機などで揺れている世界状況は、先の第二次大戦前夜に非常に似て、混沌としてきています。その過去と同じ穴にハマらないためにも、内部的にその相克はどうなっていったのか、超克出来たのかどうかを、丁寧に読み解いていく必要があると感じました、日本を甦らせるための一助としていくためにも。

 帯にあった「日本の大学生に是非読んでもらいたい。」との言葉が示すような大学生だけではなく、佐藤氏のロシアへの思いの強さを差し引いても、今現在中核世代である(はずの)30-40代にも響く内容だと、そんな風に感じた一冊です。

【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
 『「武士道」解題』(李登輝/小学館文庫)
 『想像の共同体』(ベネディクト・アンダーソン/書籍工房早山)
 『ローマ人の物語』(塩野七生/新潮社)
 『動乱のインテリジェンス』(佐藤優&手嶋龍一/新潮新書)
 『マハン海上権力論集』(麻田貞雄/講談社学術文庫)

【補足】
 佐藤優氏は、2002年の鈴木宗男氏の事件に連座する形で現場を追われるまで、ロシア外交のキーパーソンの一人として活躍されていた方です。一線を退いてからは、ご自身の経験やインテリジェンスをベースに魅力的で読み応えのある著作(『国家の罠』や『自壊する帝国』、『日米開戦の真実』etc)を精力的に出されています。

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