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仕事に絡んだ四方山話などを徒然にと思いつつも、読んで興味深かった本ネタが多くなりそうでもあります。

【ブックトーク】日本が資源大国になる日。/『希望の現場 メタンハイドレート』

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 日本には“資源”がない、これは先の大戦前から言われてきたことです。戦後もそれは言われ続けてきました、、それこそ呪文のように変わることなく。そのためか「エネルギー資源は輸入元の言い値で買うのが当然」といった風潮も諦観気味に受け入れられてきましたし、私自身もそう考えてきました。ですが、もしそういった“常識”が覆るとしたら、どう思われるでしょうか。

 これは決して夢物語ではなく、今そこにあるのです、“現実の可能性”として。

 『希望の現場 メタンハイドレート』(青山千春&青山繁晴/ワニプラス)

 そのキーワードは“メタンハイドレート”、第二次安倍内閣でも推奨されている次世代エネルギーの一つで、海底に眠る天然ガス(の素)となります。日本は四方を海に囲まれています、そしてメタンハイドレートの鉱床は太平洋側にも日本海側にもあります(日本海側の方がより見つけやすく純度も高いとのこと)。それらを見つけるには漁業などで使用する魚群探知機で行えて、発電も既存の火力発電の施設で補えるそうです。

 ようするに、活用のためのインフラ整備は基本的にほぼ整っている、ということ。

 この“魚群探知機でメタンプルームを探し出して、メタンハイドレートの在る場所を安価に探査する”というメタンハイドレートの探査法は「AOYAMA METHOD」と呼ばれ、著者である青山千春博士が確立されたものです。そして青山博士のご主人である青山繁晴さんの独立総合研究所が、国内は勿論、ロシア、中国、韓国、オーストラリア、アメリカで特許(パテント)を取得しています(EUは申請中とのこと)。

 しかしながら、お二人はこの先も、1銭たりとも、1セントたりとも、特許の使用料をもらうつもりはないそうです。それはなぜなのでしょうか、、こちらの一言にお二人の想いの全てがこめられていると、そう感じました。

 “われわれはいずれ死ぬ。このあとは死ぬまでのあいだ、
  ただ祖国に尽くすだけではありませんか?”

 私益ではなく、あくまで国益・公益を念頭に置いた言葉だと思います。福沢諭吉翁の理念とも重なって、自分の子供たちが生きていくであろう“国”とその未来に何を残せるのかと、一人の親としても考えさせられました。

 なお、国内だけでなく諸外国でも特許を取得している理由も、日本が堂々とこのメソッドを使用するためとのことで芯が通っています(詳細は本書にて確認ください)。

 そしてシビれたのはこれだけではなく、以下の問題提起をしている点。

 “自前資源を持つためには、われら国民自身が、これまでの政治、行政、経済、
  そして学問のあり方を変えねばならないという問題提起です。”

 現時点の試算ベースで、この先日本が必要とする“100年分の量”が眠っているとも言われています。そして、ここからが肝心なのですが、石油やシェールガスのように一度採掘してお終いではなく、“地球が活動をやめない限り永続的に生産される”という特質をもっています。

 仮にメタンハイドレートが実用化して、日本が永続的にエネルギーを供給できる資源大国となれば、今の、、いや、戦前からの最大の課題の一つでもあった「資源」という軛が外れることになります。これは大きい、自前でエネルギーを補うだけではなく、資源輸出国に転換することも可能になりますから。

 これが何を意味するのかというと、今現在、国際石油資本(石油メジャー)が牛耳っている「資源」の勢力図がガラッと書き換えられることになります。当然、縄張りを荒らされることになる「石油メジャー」が黙っているわけもなく、日本国内の青山さんへの抵抗勢力側に資金援助などをはじめているようですが。

 「敵はセブンシスターズ、再び」といったところでしょうか、、なんて『海賊とよばれた男』を思い出しながら。そう、これら既得権益者や敗戦利得者の勢力と戦っていくだけの肚が、政府はもとより、官財民すべてに求められることになります。もし、出光佐三さんがおられたら“何をなされるだろうか”と思わずにはいられませんでした。

 “アメリカをはじめ連合国軍に資源輸入路を封鎖されると、
  負けると分かっていながら、日米戦争を始めざるを得ませんでした。”

 先の大戦に日本が突入した要因の一つに「資源戦争」との側面がありますが、これは何も日本に限った話ではなく、当時の先進諸国であればどこもが抱えていた課題でした。そして、資源の問題は70年経った今現在でも、変わることなく最大の課題の一つとして、各国に横たわっています。

 ロシアが天然ガスのパイプラインで、アメリカがシェールガスで“元気”になっているのも、その辺りの影響があるからとも見れます。日本が70年前の愚を繰り返さないためにも、このメタンハイドレートを選択肢に加えることができるのであれば、非常に頼もしいなぁと『日米開戦の真実』を思い出しながら、、というか、加えねばならないのでしょう。

 “(メドベージェフさんが北方領土に上陸した理由の)ひとつは
  メタンハイドレートに重大な関心を持っているからだというのが
  国際社会の資源をめぐる学会などでは常識です。”

 そしてこのくだりについて、是非とも佐藤優さんのご意見を伺ってみたいなと。どんなインテリジェンスを掴んでいるのか、また双方を重ね合わせることで、何が浮かび上がってくるのか、、知的好奇心の点でもとても刺激される内容でした。

 “メタンハイドレート実用化は、「祖国を甦らせよ」と
  先人たちが私たちに与えた使命なのだと考えています。”

 70年前、私の世代から見ると祖父母の世代となりますが、その世代から受け継いだものを、次の世代、子や孫にどう渡していけばよいのか、、戦後の安穏とできた時代は終わり、新しい局面に入りつつある事を身近に感じながら、“自分事”として考えていかないとなと、徒然に。

 ん、一人でも多くの方に手に取っていただきたいと、そんな風に感じた一冊です。

【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
 『海賊とよばれた男』(百田尚樹/講談社)
 『日米開戦の真実』(佐藤優/小学館文庫)
 『マハン海上権力論集』(麻田貞雄 /講談社学術文庫)
 『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』(北康利/講談社文庫)
 『ハーバード白熱日本史教室』(北川智子/新潮新書)

【補足】
 本書を読んでいて脳裏に刻み込まれたお名前が二つ、あります。お一人は新藤義孝代議士、もうお一人は吉田昌郎所長、吉田さんは今年の7月にお亡くなりになりましたが、新藤さんは第二次安倍内閣で総務大臣として入閣されています、どうしてかとの理由は、本書にて。。



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