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仕事に絡んだ四方山話などを徒然にと思いつつも、読んで興味深かった本ネタが多くなりそうでもあります。

【ブックトーク】おもてなしの“こころ”/『県庁おもてなし課』

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 「おもてなし」、先日の東京五輪招致プレゼンでも話題になったフレーズですが、高知県では実際に「おもてなし課」として、県庁の行政サービスに組み入れています。その「課」を題材に、糖分たっぷりの小説としてまとめたのがこちら。

 『県庁おもてなし課』(有川浩/角川文庫)

 物語の主人公は、「おもてなし課」に新しく配属された県庁職員(掛水史貴)と契約社員(明神多紀)の二人の若者、それぞれに悩みや葛藤と、そして喜びをぶつけ合い、分かち合いながら成長して歩んでいきます、とここまでならそんなに珍しくはないのですが、、

 興味深かったのは、高知県の観光ビジネスを軸にして、首都圏と地域の格差から、県庁と民間の意識の差、利用者の目線からのサービスなど、ビジネス書としても非常に読み応えのある素材をテンコ盛りとしている点。

 観光とは「光を観せる」ということ、それではその“光”が意味するところは何になるのでしょうか。

 さまざまな試行錯誤の果てで、彼らがいきついたのは「おもてなしの“こころ(マインド)”」、それは観光に来る人たちに“楽しんでもらえる”ように、そしてそれを高いレベルで共有していこうという心意気

 文中でもしばしば取り上げられる、いわゆる「お役所体質」は、実際に著者有川さんの体験をネタにされています(ちなみに「パンダ誘致計画」は全くのフィクションとのことデス)。民間意識を持てとは「サービス利用者」の目線を忘れるなとのこと、、わたしも民間企業にいる身ですが、サービサーの一人として考えさせられる内容でした。

 一流のビジネス書でもあると、思います。実際にいくつかの地方自治体で研修テキストとして活用されているとのことで、サービス業に携わるのであれば手にとって損はなかったなと、、7年後にも想いを馳せながら感じています。

 なお、物語のイメージカラーは青、高知の空と海、そしてもう一つの秘められた“青”が彩なしています。主人公の二人だけではなく、カウンターパートとも言うべきもうひと組の男女(吉門喬介&清遠佐和)、彼らが綴りはじめた物語は、なんとも有川さんらしい甘さたっぷりで、ニヤニヤしながら読んでしまいました(こちらはあまりビジネスとは関係ないです)。

 “よい小説は時代を映す鏡であり、そして人々にその時代を共有させる力がある”とは『子どもの教養の育て方』での佐藤さんの言葉ですが、あらためて「おもてなし」、いい言葉だなぁ、と実感しました。そして、サービス事業者として考えていかねばならない視点もあらためて。

 なにはともあれ、ただ無性に、純粋に“高知”を訪れたくなった、そんな一冊です。

【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
 『ローマ法王に米を食べさせた男』(高野誠鮮/講談社)
 『子どもの教養の育て方』(佐藤優&井戸まさえ/東洋経済新報社)
 『レスポンシブル・カンパニー』(イヴォン・シュイナード&ヴィンセント・スタンリー/ダイヤモンド社)
 『ワーク・シフト』(リンダ・グラットン/プレジデント社)
 『100円のコーラを1000円で売る方法』(永井孝尚/中経出版)

【補足】
 ちなみに今年の春先に映画化もされました、堀北さんかわいいなぁ、、とおっさんライクに観に行きましたが、原作を丁寧に再現されていて魅力的な一編でした。高知に行きたいとの気持ちが、レバレッジされたような気がします。あ、そうそう観光地に限らず“トイレ”って大事なんですよ!とも。

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