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仕事に絡んだ四方山話などを徒然にと思いつつも、読んで興味深かった本ネタが多くなりそうでもあります。

【ブックトーク】秋の訪れを感じる一冊。/『錦繍』

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 先日の台風18号が夏の名残りを連れさったようで、朝夕と大分涼しくなってきました。空は高く雲も細くなり、秋の気配が色濃くなるこの時期にふと思いだすのが、こちらになります。

 『錦繍』(宮本輝/新潮文庫)

 とある理由で離婚した男女が、10年ぶりに再会したところから始まる物語。再会の舞台は蔵王のドッコ沼、そのゴンドラ・リフトの中ですれ違うところから。といっても、その後のやりとりは約1年かけての往復書簡のみ、なんですけども。

 男は37歳、女は35歳と、人生を季節になぞらえれば、秋の始まりを綴った物語となりましょうか。10年前はそれぞれに20代後半、青春がまさに燃え尽きようとしていた、そんな直情的な時代の“感情の行き違い”をふり返るところから書簡は語り始めます。

 “時間の長さ”が傷痕を消してくれることはないけれど、薄めてはくれるのかなと、なんとなく。

 10年、長いようで短く、、でも、人生がうつろいゆくには十分な時間で。それぞれがそれぞれの10年を穏やかに、でも結婚をしていたからこその開けっぴろげさもあわせて、まるでお互いを旅するかのように語っていきます。

 人生の再生、、幸せは出会っていないだけなのか、転がっているのに気づかないだけなのか。読んで受け取る印象は、手に取った年代で感想が変わりそうだな、と感じました。ちなみに私の場合は、、

 10代では、うわべだけで理解できませんでした
 20代では、斜に構えて鼻で笑っていた覚えがあります
 30代の今、なんだかスルッと、“こころ”に入ってきたような気がしています

 人生の酸いも甘いも、なんて言えるほどに老成しているとは思えませんが、少しは「大人」になったのかな、とも感じてみたり。耳をすませば、、そろそろ落ちつけよ、いやまだまだだよ、、そんな言葉のせめぎ合いも聞こえてくるかのようで。

 40代、50代で読んだ時にどう感じるのか、不思議なほどに楽しみにしている自分がいる、そんな一冊です。

【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
 『キネマの神様』(原田マハ/文春文庫)
 『医学生』(南木佳士/文春文庫)
 『二十歳の火影』(宮本輝/講談社文庫)
 『闇の守り人』(上橋菜穂子/新潮文庫)
 『食堂かたつむり』(小川糸/ポプラ文庫)

【補足】
 なおこちらは、お世話になっている「東京朝活読書会(エビカツ読書会)」にて、【テーマ:秋にまつわる本】の回で紹介しました。台風18号が秋の訪れを告げてくれた日という、なんともタイミングのいい感じで。一口に“秋”と言っても、読書、食欲、芸術などなど、様々なアプローチがありますね、朝から面白い話をたくさんいただきました、ご興味を持たれましたら、是非こちらから覗いてみてください~

  >>> エビカツ!~東京朝活読書会の本棚(ブクログ)

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