原子力論考(101) せめて一次ソースを確かめましょうよ
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こんにちは。たまにエネルギーや安全保障問題についての駄文を書きますが、本職は文書作成能力向上トレーナーの開米です。
昨日、こんな情報を見かけました。
ハア? というような話です。福一事故からの放射性物質放出量はチェルノブイリと比べると1/5以下と推定されているので、「4倍」というのが正しいのであればこれは非常にインパクトのある話ですが、(1)も(2)もそもそも事実ではありません。要するに「ガセネタ」です。ガセネタを根拠に(3)-(5)で東電とメディアと政治を批判していたら、批判する方が馬鹿と思われるだけです。
こういう話を見かけたら、「なんてこと! 許せない!」と義憤にかられて拡散する前に、一次ソースを確認しましょう。なんといっても、
・・・とあるわけですよ。だったらその「公表」した資料がどこかにあるはずです。
ネット時代なんですから、東電本社まで行かなくても、こういう情報ならそれこそ「ネットで検索すれば」手に入ります。
というわけで探しましたが、これが見つかりません。まあ、見つからなくて当たり前です。ガセネタなんですから。
代わりに見つかったのはこういうページです。
↑どうもここがネタ元になって、これを信じた日本人が「チェルノブイリの4倍、広島型原爆4023発分」という情報を拡散しているらしいんですね。
しかし、↑この記事が出たのは2012/5/25 です。もしこれが本当ならとっくにもっと大騒ぎになっていなければおかしいです。・・・という指摘をすると、「東電と政府が情報隠蔽を図っているからだ」といった陰謀論に走る人々がまだいるのには頭が痛いところ。
この記事を載せているExaminar.comというのは「市民ジャーナリズム」を標榜するオンラインメディアで、要は個人ブログの集合みたいなものです。このネタ元記事の著者である Alexander Higgins というのも independent citizen journalist and author of The Alexander Higgins Blog 、まあ、ざっくばらんに言えばアマチュアの個人ブロガーです。
アマチュアだから情報の信頼性が低い、ということではなく、プロの記者や報道機関だろうがアマチュアだろうが、「チェルノブイリの4倍、広島型原爆4023発分」といった数字を語るのであればその根拠を明示する必要があります。これはプロアマを問わずです。
ということで確認してみましょう。該当記事中で Alexander Higgins は次のように書いています。
ポイントは以下の2つの数字です(訳しておきました)。
数字、それも公式発表に含まれている数字というのは一番確認しやすい情報なので、こういうものは一次ソースで確認します。すると、最初の 360,000テラベクレル というのが間違いであることがわかります。
該当する東電のプレスリリース(→英語版)(→日本語版)
Higgins はセシウムとだけ書いていて137か134かその合計かを示していませんが、上記リリースでは次のようになっています。
大気への放出量
Cs137 10,000 テラベクレル
Cs134 10,000 テラベクレル
海洋への放出量
Cs137 3,600 テラベクレル
Cs134 3,500 テラベクレル
360,000 テラベクレルなどという数字はどこにもありません。また、英語版、日本語版ともに同じ情報が書かれています。
したがって、
↑まずこれが間違いです。
↑「この発表は英語でのみ行われ」も間違いですし、「日本のメディアでは報道されていない」というのも間違いです。報道されています。
ということで、残りの
↑これも含めてすべてが「ガセネタ」です。
にもかかわらず、この Alexander Higginsのガセネタを信じ込んでtwitterやfacebookで拡散する人が後を立ちません。もう1年前の話だというのに・・・・
しかもそれをする人の中に、優秀なビジネスマンや学者やジャーナリストがわんさかいるのはどういうことなんでしょうね。
インパクトの大きな情報を拡散させる前に、せめて一次ソースを確認しましょうよ。
自分で確認している暇がないなら、代わりに確認してくれる誰か信頼のおける人に聞きましょうよ。
そもそも、元ネタが1年前の話なので、それが大きな話題になっていない、という時点でガセネタを疑うべきところです。
さらに言うなら、「東電がこの発表を英語でのみ行ったのは日本人に知らせたくないからであり」なんてことを大まじめに信じるなんて、英語が読める日本人が地上に100人しかいないとでも思っているのでしょうか。今どき、これほど日本人にとって重要な情報を英語だけで発表したからといって日本人に気がつかれないわけがないじゃないですか。
ちなみに、元ネタのHigginsは文中でソースと思われる朝日新聞や読売新聞の英字ニュースへのリンクを示していますが、リンク切れになっています。たとえリンク切れでなかったとしても、朝日も読売も新聞社であって、どちらも一次ソースではありません。この話の場合「東電の発表」なわけですから、該当する東電のリリース(英語版)を一次ソースとして明示しておくべきなのに、Higginsはそれをやっていないわけです。
こういうところからして、元ネタ自体の信憑性レベルがうかがい知れるというものです。
世の中はガセネタに溢れています。「衝撃的な情報」の大半はガセなのが現実です。ショックを受けてリツイートする前に、一次ソースを確認しましょう。そうしない限り、大事なところで判断を間違え続けることになりますから。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
昨日、こんな情報を見かけました。
(1) 2012年5月24日、東電は福一事故によるセシウム放出量を見直した結果、チェルノブイリの4倍、広島型原爆4023発分であったと公表した
(2) この発表は英語でのみ行われ、日本のメディアでは報道されていない
(3) 東電がこの発表を英語でのみ行ったのは日本人に知らせたくないからであり、
(4) それを日本のメディアが報道しないのは東電と政治の圧力がかかっているからだ
(5) ようするに東電も日本のメディアも政治も腐っている
ハア? というような話です。福一事故からの放射性物質放出量はチェルノブイリと比べると1/5以下と推定されているので、「4倍」というのが正しいのであればこれは非常にインパクトのある話ですが、(1)も(2)もそもそも事実ではありません。要するに「ガセネタ」です。ガセネタを根拠に(3)-(5)で東電とメディアと政治を批判していたら、批判する方が馬鹿と思われるだけです。
こういう話を見かけたら、「なんてこと! 許せない!」と義憤にかられて拡散する前に、一次ソースを確認しましょう。なんといっても、
(1) 東電は福一事故によるセシウム放出量を見直した結果、チェルノブイリの4倍、広島型原爆4023発分と公表した
・・・とあるわけですよ。だったらその「公表」した資料がどこかにあるはずです。
ネット時代なんですから、東電本社まで行かなくても、こういう情報ならそれこそ「ネットで検索すれば」手に入ります。
というわけで探しましたが、これが見つかりません。まあ、見つからなくて当たり前です。ガセネタなんですから。
代わりに見つかったのはこういうページです。
"Fukushima nuclear cesium fallout equals 4,023 Hiroshima bombs - Jersey City Civil Rights Examiner.com"
http://www.examiner.com/article/fukushima-cesium-equals-4-023-hiroshima-bombs
↑どうもここがネタ元になって、これを信じた日本人が「チェルノブイリの4倍、広島型原爆4023発分」という情報を拡散しているらしいんですね。
しかし、↑この記事が出たのは2012/5/25 です。もしこれが本当ならとっくにもっと大騒ぎになっていなければおかしいです。・・・という指摘をすると、「東電と政府が情報隠蔽を図っているからだ」といった陰謀論に走る人々がまだいるのには頭が痛いところ。
この記事を載せているExaminar.comというのは「市民ジャーナリズム」を標榜するオンラインメディアで、要は個人ブログの集合みたいなものです。このネタ元記事の著者である Alexander Higgins というのも independent citizen journalist and author of The Alexander Higgins Blog 、まあ、ざっくばらんに言えばアマチュアの個人ブロガーです。
アマチュアだから情報の信頼性が低い、ということではなく、プロの記者や報道機関だろうがアマチュアだろうが、「チェルノブイリの4倍、広島型原爆4023発分」といった数字を語るのであればその根拠を明示する必要があります。これはプロアマを問わずです。
ということで確認してみましょう。該当記事中で Alexander Higgins は次のように書いています。
On Wednesday(注:日本時間では 2012/5/24 木曜日), TEPCO released revised estimates of the amount of radiation leaked from Fukushima.
The new estimated calculated the level of cesium released to be 360,000 tera becquerels.
That is 24 times higher than last August's estimate and represents a cesium leak equal to 4,023 Hiroshima bombs.
The estimate is also more than 4 times Chernobyl which is estimated to have released 85,000 tera becquerels of cesium radiation into atmosphere.
ポイントは以下の2つの数字です(訳しておきました)。
東電の新しい試算ではセシウムの放出量は 360,000 テラベクレル
この値はチェルノブイリでの85,000テラベクレルの4倍である
数字、それも公式発表に含まれている数字というのは一番確認しやすい情報なので、こういうものは一次ソースで確認します。すると、最初の 360,000テラベクレル というのが間違いであることがわかります。
該当する東電のプレスリリース(→英語版)(→日本語版)
Higgins はセシウムとだけ書いていて137か134かその合計かを示していませんが、上記リリースでは次のようになっています。
大気への放出量
Cs137 10,000 テラベクレル
Cs134 10,000 テラベクレル
海洋への放出量
Cs137 3,600 テラベクレル
Cs134 3,500 テラベクレル
360,000 テラベクレルなどという数字はどこにもありません。また、英語版、日本語版ともに同じ情報が書かれています。
したがって、
(1) 東電は従来のセシウム放出量を見直した結果、チェルノブイリの4倍、広島型原爆4023発分と公表した
↑まずこれが間違いです。
(2) この発表は英語でのみ行われ、日本のメディアでは報道されていない
↑「この発表は英語でのみ行われ」も間違いですし、「日本のメディアでは報道されていない」というのも間違いです。報道されています。
ということで、残りの
(3) 東電がこの発表を英語でのみ行ったのは日本人に知らせたくないからであり、
(4) それを日本のメディアが報道しないのは東電と政治の圧力がかかっているからだ
(5) ようするに東電も日本のメディアも政治も腐っている
↑これも含めてすべてが「ガセネタ」です。
にもかかわらず、この Alexander Higginsのガセネタを信じ込んでtwitterやfacebookで拡散する人が後を立ちません。もう1年前の話だというのに・・・・
しかもそれをする人の中に、優秀なビジネスマンや学者やジャーナリストがわんさかいるのはどういうことなんでしょうね。
インパクトの大きな情報を拡散させる前に、せめて一次ソースを確認しましょうよ。
自分で確認している暇がないなら、代わりに確認してくれる誰か信頼のおける人に聞きましょうよ。
そもそも、元ネタが1年前の話なので、それが大きな話題になっていない、という時点でガセネタを疑うべきところです。
さらに言うなら、「東電がこの発表を英語でのみ行ったのは日本人に知らせたくないからであり」なんてことを大まじめに信じるなんて、英語が読める日本人が地上に100人しかいないとでも思っているのでしょうか。今どき、これほど日本人にとって重要な情報を英語だけで発表したからといって日本人に気がつかれないわけがないじゃないですか。
ちなみに、元ネタのHigginsは文中でソースと思われる朝日新聞や読売新聞の英字ニュースへのリンクを示していますが、リンク切れになっています。たとえリンク切れでなかったとしても、朝日も読売も新聞社であって、どちらも一次ソースではありません。この話の場合「東電の発表」なわけですから、該当する東電のリリース(英語版)を一次ソースとして明示しておくべきなのに、Higginsはそれをやっていないわけです。
こういうところからして、元ネタ自体の信憑性レベルがうかがい知れるというものです。
世の中はガセネタに溢れています。「衝撃的な情報」の大半はガセなのが現実です。ショックを受けてリツイートする前に、一次ソースを確認しましょう。そうしない限り、大事なところで判断を間違え続けることになりますから。
■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
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