オルタナティブ・ブログ > 開米のリアリスト思考室 >

「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(98) 通信と電力(5) 電力では通信ほどの「劇的な技術革新」は進んでいない

»
こんにちは。本業は文書化能力向上コンサルタントで、電力にも原子力にも何の関係も無いのになぜか原子力論考を書いている開米瑞浩です。

前回、一般にビジネスとして何らかのサービスを提供しよう、という場合、必要な投資とそれで達成できるサービス品質の間には、ざっくり言えばこんな関係があるということを書きました。

2013-0623-3.PNG

そして、電力は品質低下の許容度が極めて小さいのに対して通信のほうはそれが大きいため「品質低下を代償として安く売る」ということが可能なこと、電力についてはそれがありえないことを書きました。

その上で、通信と電力の違いの第二の論点は、「急速な技術革新」です。

「技術革新」というのは一般に、上のグラフを左にシフトさせます。

2013-0624-1.PNG

この10数年、通信関係は猛烈な技術革新の渦中にあり、その結果「少し待っていれば、高性能なサービスがどんどん安くなる」ということが続いていました。

ADSLが始まったときは「最高8Mbps」で「高速!」だったのに今では光で100Mbpsが普通です。

もう少し時代をさかのぼると、たとえば20年ほど前、私がいた会社にLANが入り始めた頃は直径10ミリもあるぶっとい同軸ケーブルでわずか10Mbpsを社内の数十台のPCで共用し、しかも実効速度はせいぜい3Mbps程度だったのに対して現在は1Gbpsが当たり前です。ざっくり言って100倍ですし、そのために必要なケーブルも軽く細くなりました。

こういう技術革新を背景にしたからこそ、通信業界では値下げをすることができたのであって、自由化すれば価格競争が進むというものではありません。

電力の方面ではこんな「見かけ上分かりやすい猛烈な技術革新」は存在しないのです。
たとえば、東京電力の場合、火力発電全体の平均熱効率は1970年ごろに39.6%だったものが、2009年にはようやく46.9%になっている程度です(→火力発電所の熱効率(東京電力))。通信業界が「10倍100倍あたりまえ」の勢いで技術革新が進んでいるのに比べると、微々たる歩みでしかありません。

これも、「通信は情報なのに対して、電力はエネルギーである」という違いのひとつです。通信速度は理論上の限界がなく、何倍にでも向上するのに対して、エネルギーの熱効率は100%以上には絶対になりません。そのため、いかに100%に近づけるか、という勝負なので、やっていることがどんなにすごくても、見かけ上「通信速度10倍!」のようなわかりやすい差にはならないんですね。

こういう技術革新の差がある以上、電力に対して通信業界のような「自由化で価格低下」を期待するのは無理があります。

実際のところは、もし「劇的な技術革新」を期待するならそれこそ原子力が最適なのですがね・・・・


次回へ続きます。次回は、限界コストの話。
 

■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
Comment(0)