オルタナティブ・ブログ > 開米のリアリスト思考室 >

「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(92)2001年は過去最大電力を500万kW以上更新しました

»
 こんにちは。本業は文書化能力向上コンサルタントですが、趣味で原子力論考を書いている開米瑞浩です。

 4月にこのブログ名を「開米のリアリスト思考室」に変更したのですが、その意図は「現実をありのままに把握したうえで、何をするべきかを考えよう」ということです。
 本来は「複雑な情報を整理整頓してわかりやすく書く文書作成能力」のコンサルタントなのですが、「複雑な情報を整理整頓する」というのは「現実をありのままに把握する」ためにも欠かせない力であり、2年前の東日本大震災・原発事故以来、それが社会的にも求められています。

 「現実をありのままに把握する」ための1つの欠かせない習慣は、一次情報を確認するということです。

 その点でちょっと気になった情報があったので今回はその話を書きましょう。

"原発と電力問題:ピークカットが電力不足解消に有効なのに、130件しか申し込みがなかった東京電力の「ピークシフト料金」 - 白熱のディベート教室"
「福島原発事故以前では1年間365日×24時間=8760時間のうち、最大電力需要6000万kWに近い電力需要の記録した時間数はわずか5〜6時間でしかなく」

 と、こういう主張、震災以来の電力問題に関する議論の中で聞いたことのある方も多いことでしょう。この主張はリンク先のブログで書かれているものです。

 リンク先には出典が書かれていませんが、おそらく出典は環境エネルギー活動研究所(ISEP)の飯田哲也氏によるブリーフィングペーパーと思われます。

環境エネルギー政策研究所 ブリーフィングペーパー 2011 年10 月25 日(火)
原発を再稼動しなくても今冬と来夏の電力は足りる
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/11th/11-iida4.pdf

 ↑この中で該当する記述があり、有名なのでその後至るところで「原発はいらない」主張の論拠として使われています。

 「わずか5~6時間」という数字のインパクトが強いのでこのフレーズが大人気になったものと思われますが、こういう「一部を抜き出した数字」には注意しなければなりません。飯田氏は「5900万kW以上を記録した時間はわずか年間5~6時間」と主張していますが、その5~6時間という数字が正しかったとしても、そのピークが尖っているときと、なだらかな時とでは意味はまったく違います。

2013-0612-03.JPG

 ピークが尖っているなら、「その5~6時間さえなんとかすれば後は乗り切れる」という期待が持てますが、なだらかな場合はそうはいきません。

 ということで当の飯田氏がブリーフィングペーパーで自ら書いているデータを載せますとこうなります。

2013-0612-01.JPG
↑2010年度分のみ。出典→ISEPブリーフィングペーパー2011/10/25
2008~2010年分のデータはこちら→表示

 ということで、5800万kW以上で28時間、5700万kW以上では79時間となり、「なだらか」型のほうが実情に近いことがわかります。
 6000万kWに対する100万kWというのは電力の予備率にして1.6%程度にしかならず、大型火力発電所が一基飛べば失われる程度の微々たる量でしかありません。「5900万kWを超える5~6時間さえ乗り切れば大丈夫」というわけにはいかないのです。

 しかし、「5~6時間」という数字のインパクトは大きいため、「そのぐらいだったらなんとかなるんじゃないの?」と思わせる効果があるのでしょう。その効果を狙ってISEPでは都合のいい数字を切り取ってアピールしているわけです。

 あらためて書きますが、こういう「一部を抜き出した数字」には注意しなきゃいけないんですよ。都合の良い部分だけを切り取っている可能性があるからです。ですから、一次情報にあたって前後のつじつまがあっているかを確認する必要があります。

 ついでにもうひとつISEPが無視している、「都合の悪い数字」を紹介します。
 東京電力の2001年7月24日のプレスリリースです。

"最大電力の記録更新について(今夏5回目)"
http://www.tepco.co.jp/cc/press/01072401-j.html

 平成13年(2001)7月24日、東京電力の最大電力は6430万kWを記録しています。

 ISEPは「最大電力需要6000万kW」と、まるで6000万が上限であるかと読めるような書き方をしていますが、2001年には6430万を記録していたという事実には口をつぐみ、「2010年に5900万kWを超えたのはわずか5~6時間」と、彼らに都合のいい数字だけを大々的に宣伝しているわけです。

 もうひとつ、こちらの資料も見てみましょう。

平成24年度 数表でみる東京電力
http://www.tepco.co.jp/company/corp-com/annai/shiryou/suuhyou/pdf/suh-all-j.pdf

 ↑これのp.14に「(1)GDPと当社電力需要の推移」というグラフがあり、昭和26年からの最大電力の推移が載っています。大きなグラフなので平成2年以降の分のみ引用します。細い点線が最大電力需要のグラフで、赤字・赤線の注記は私が追加してあります。

2013-0612-04.JPG

 
 これを見ると、

  • 最大電力が6000万kWを超えた年は過去10年の間に何度もあったこと
  • 最大電力は年による変動が大きいこと

 がわかります。「年による変動が大きい」のはつまりは気象に左右されるからで、2001年には

7月 5日   6010万kW
7月12日  6080万kW
7月13日  6230万kW
7月23日  6254万kW
7月24日  6430万kW


 の5回に渡って「過去最大電力」を更新しています。5回にわたって最大電力を更新するような年に、「5900万kWを超えるのはわずか5~6時間」で済むはずがないのは普通に考えればわかるでしょう。

 ちなみに2001年以前の「過去最大電力」は2000年8月3日の5924万kWで、

    2000 / 8 / 3   5924万kW
    2001 / 7 /24  6430万kW

 と、わずか1年で500万kW、最新の大型原発4基分の最大電力需要が増加しているわけです。

 こういう、たった10年前の実例には口をつぐんで「5900万kWを超える5~6時間だけを乗り切ればなんとかなる」という主張をするのはいかがなものでしょうか。

 「1000年に1度の大津波に対応できなかった」ことを非難する同じ人々が、過去10年間に何度もあった実例を無視して楽観的な主張をするというのは理解できません。「そんな猛暑に見舞われることはもう二度と無い」とでも考えているのでしょうか。

 現実の政策はあくまでも現実をありのままに把握するところからスタートしたいものです。


■開米の原子力論考一覧ページを用意しました。
→原子力論考 一覧ページ
Comment(0)