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「誰かが教えてくれることを信じるのではなく、自分で考えて行動する」ためには、矛盾だらけの「現実」をありのままに把握することから始めるリアリスト思考が欠かせません。「考える・書く力」の研修を手がける開米瑞浩が、現実の社会問題を相手にリアリスト思考を実践してゆくブログです。

原子力論考(87)発送電分離で電気料金が下がる・・・わけがない

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 本業は「文書化能力向上トレーナー」ですが、余技で原子力論考を書いている開米瑞浩です。

 なにやら、「日本の電気料金は高すぎる! 競争を導入して電気料金を下げるために発送電分離をすべき!」という主張をよく見かけますが、実際に発送電分離で電気料金が下がるのか、また、下がったとして電力品質の低下といった副作用は無いのかどうかはきちんと精査する必要があります。

 なんといっても電力というのはすべての産業活動のインフラなので、やってみてから「あ、ダメだったね、てへへ」では済まないのですよ。

 では、「あ、ダメだったね、てへへ」というのはどういう状態かというと例えばこういう状態です。

【例1】
アメリカの電気料金は、「自由化州」(発送電分離が進捗している州)の方が、「規制州」(発送電分離が緩やかな州)に比べて料金の上昇度合いが高くなっている傾向にある。

"みずほCB:みずほ産業調査 Vol.39  IV.業種別の中期展望 3.電力産業~我が国の電力供給体制を考える~(発送電分離論の再燃を踏まえて) " より

【例2】
カリフォルニア電力危機:電力自由化後、計画停電の頻発、電力価格の高騰、地域電力会社の経営破綻が続発。
カリフォルニア州の電力危機とPJMの概要 (財)電力中央研究所

そもそも発送電分離をするというのはどういうことでしょうか。
ごく簡単なイメージを書くと、発送電分離前がこれ↓

資源供給者というのは石炭やガス、石油の産出国で、そこから燃料を調達してきて発電し、送配電網を通して需要家に売る、という流れですね。
 2013-0529-01.JPG

実際は現在でも発電だけを行う会社もありますし、需要家への電気の販売も大口は自由化されていますが、単純化するためにそれらを無視して書いてありますのでご注意ください。

それに対して、分離後はこう↓

2013-0529-02.JPG

発電会社が「公平な条件で」送配電網を使えるようになり、需要家が発電会社を選べるようにすることで、市場メカニズムを通した発電会社間の競争が促進され、電力価格が下がる・・・というのが「発送電分離」を主張する人の主な売り文句です。

しかし、それはほんとかよ? とツッコミを入れたくなるのは無理もないでしょう。例1は「発送電分離したほうが電力料金が高い」という事例であり、例2は「発送電分離した国・地域で停電が頻発し、電力会社が経営破綻」という事例です。

冷静に考えて欲しいのですが、

「倒産するような会社から、電力を買いたいですか?」

市場メカニズムが働く、というのはそういう意味ですよ。近所の牛丼屋だったらある日突然潰れていても別な店で食べればいいだけですが、電力がいきなり供給されなくなったら仕事ができなくなります。

もちろん、電力はそういう意味で超重要な社会インフラなので、電力会社が経営破綻するとしても事業自体は継続されるような手が打たれるでしょう。おそらくは。

しかし、「結局はどこかが引き継いでくれるんでしょ」と安心するのは禁物です。現に、発送電分離の制度設計が悪かったカリフォルニアでは「計画停電が頻発」しつつ「電力価格の高騰」が起きています

冷静に考えれば、発送電分離で「市場メカニズムにより電力価格が下がる」ような理由はありません。というのは、電力価格の大きな構成要素は下記3つであり、

    燃料調達コスト
    資本コスト
    送配電コスト


「発送電分離」はこの3要素をいずれも押し上げる効果もあるからです。「市場メカニズムによる競争促進が業務効率を向上させ、コストダウンをもたらす」という効果がまったくない、とは言いませんが、それよりもコストアップのほうが大きかったら意味がありません。

話が長くなるので次回に続きます。

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