「下記」が「牡蠣」に変換されても「牡蠣」が食べられるわけではない
日本語入力に予測変換機能があります。私は、ひらがな入力なのですが、一文字入れるごとに「この言葉に変換したいのですよね?」と教えてくれるわけです。例えば、「にほ」と入力すると「日本語」とか「日本語入力」を予測し、変換キーを押すとそれが書き込まれます。文章を書くときの生産性は大いに向上します。
しかし、よく間違えます。先日も、石巻の人に送るメールに「下記の件、宜しくお願いします」と入力しようと思ったら、「牡蠣の件、宜しくお願いします」と変換されてしまい、そのまま送ってしまいました。送った後に気付いたのですが、後の祭りです。かすかな期待を込めてしばらく待ちましたが、ついぞ「牡蠣」は送られてはきませんでした。
先日、GitHub Copilotのデモを見て、これと一緒なんだなぁと思いました。コードを書き始めると、次に続くコードの候補をどんどん提示するわけです。入力する文字列を増やすほどに候補が絞られ、選択するとそれが直ちに続きに書き込まれます。これは、コード生成の生産性を上げることに大いに役立ちそうです。実際に使っている人に話を聞くと、作業時間は、半分かそれ以上短縮できるのじゃないかと話していました。ただ、あくまで、「コード生成」に限っての話しです。しかし、こんな話しも聞こえてきます。
「プログラミングに精通し、もともとプログラムを書くのが早い人ほど、生産性向上の効果が高い」
それはそうだなぁと思います。日本語入力の予測変換機能もそうですが、予測された言葉が、正しいかどうかを瞬時に見分け、これを選択できなければ生産性は上がりません。何を書きたいかを明確にでき、文章の構成を予め描き、沢山の語彙や表現方法を駆使できる文章力がなければ、この機能を十分に活かすことができないわけです。いくら優れた予測変換機能があっても、何をどう書くかに迷っていたら生産性など上がりません。
プログラミングでも同じ話です。結局のところ、優秀なプログラマーほど、こういうツールを使ってパフォーマンスを上げられるわけです。そう考えれば、システム開発の現場で、「AIが人間の仕事を奪う」というのは、まだまだ先の話のように感じます。
しかし、このような技術の進化の先を考えれば、「AIを使いこなせる人間が、AIを使いこなせない人間の仕事を奪う」可能性は、大いにありそうです。
上流工程での人間の役割は大きく、AIの支援を得て、生産性や品質を向上させることはできます。人間の側に、この作業領域における知識やスキルがなければ、システム開発はできません。一方、下流工程における作業領域は、かなりAIに任せられる範囲が拡がるでしょう。
これまでであれば、上流工程をやる人たちと下流工程をやる人たちが別れていていました。上流工程の仕事の成果を下流工程で引き受けることで、ここに「工数ビジネス」の需要を生みだしていました。しかし、上流工程の仕事の生産性が向上し、その余力を活かして、これまで上流工程をやっていた人が、AIを駆使して下流をこなせるようになれば、「工数ビジネス」の源泉は失われてしまいます。
変化の速い世の中で、俊敏に対処できる能力が企業に求められるいま、これを内製化と組み合わせれば、企業の競争力を高めることに貢献できます。かくして、「AIを使いこなせる"上流工程の"人間が、AIを使いこなせない"下流工程の"人間の仕事を奪う」構図が生まれてくるのではないかと思います。
もちろん、これは、AIだけのことではありません。クラウドサービスが、プラットフォームやAPIを充実させ、サーバーレスの適応範囲を拡げつつある中、AIの発展と相まって、この構図は、当たり前になり、内製化をさらに推し進めることになるのでしょう。
「AIがプログラムを書くようになれば、プログラミングの勉強なんかしても、意味が無いのではありませんか。」
あるIT企業の新入社員研修でこんな質問をもらいました。AIの時代だからこそ、プログラミングも含めて、人間としての知識やスキルをこれまで以上に磨いていかなければなりません。その前提があるからこそ、こういう道具を使いこなすことができ、仕事のパフォーマンスをあげることができるのだと思います。
私は、2次元CAD「CADAM」が全盛の時代に、これを売りまくっていました。その時、ベテランのエンジニアから、図面を書く能力が失われてしまうので、うちの会社の技術力が低下してしまうのではないかという懸念を何度も聞かされました。いまとなっては笑い話のような話しなのですが、どなたも真剣でした。結果として、製品開発力は向上し、新しい技術も登場し、そのスピードも加速したわけです。
もちろん、エンジニアリングの現場から人がいなくなることはありませんでした。むしろ、下流工程での知的力仕事の生産性が上がったことで、上流工程での人間の役割が相対的に大きくなり、その需要は、さらに高まり、いつもエンジニア不足の状態が続いています。
AIの時代だからこそ、ますます学びは大切になっていくのでしょう。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第44期
次期・ITソリューション塾・第44期(2023年10月4日[水]開講)の募集を始めました。
ChatGPTをはじめとした生成AIの登場により、1年も経たずにで、IT界隈の常識が一気に塗り替えられました。インターネットやスマートフォンの登場により、私たちの日常が大きく変わってしまったことに匹敵する、大きな変化の波が押し寄せています。ブロックチェーンやWeb3、メタバースといったテクノロジーと相まって、いま社会は大きな転換点を迎えています。
ITに関わる仕事をしているならば、このような変化の本質を正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様の事業活動に、どのように使っていけばいいのかを語れなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
以上のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
詳しくはこちらをご覧下さい。
- 期間:2023年10月4日(水)〜最終回12月13日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(水曜日)18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み99,000円)
- 内容:
- デジタルがもたらす社会の変化とDXの本質
- IT利用のあり方を変えるクラウド・コンピューティング
- これからのビジネス基盤となるIoTと5G
- 人間との新たな役割分担を模索するAI
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 変化に俊敏に対処するための開発と運用
- アジャイルの実践とアジャイルワーク
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
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詳しくはこちらをご覧下さい。
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【特典2】本書で扱うには少々専門的な,ITインフラやシステム開発に関わるキーワードについての解説も,PDFでダウンロードできます!
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
日々の暮らしは?買物、病院、学校は?気になることを八ヶ岳暮らしの人に聞いてみよう!
- 日時:2023年10月7日(土) 10:00〜12:00(Q&Aを含む)
- 会場:8MATO&オンライン
- 内容:「失敗しない八ヶ岳移住。まずはここから始めよう」
- なんて素敵な八ヶ岳暮らし!でも注意すべき点も
- 後悔する失敗移住の「あるある」
- 後悔しない八ヶ岳暮らしのために
- 八ヶ岳移住者対談「ここがツラいよ!八ヶ岳暮らし」
- モデレーター:合同会社TMR代表 玉利裕重(たまさん)
- 対談登壇者:八ヶ岳移住者(調整中)
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。