いま中学生になったばかりの子ども達が社会人になる歳に社会はどうなっているのだろう
2007年、iPhoneが米国で発売された。この時、スティーブ・ジョブズは、iPhoneを「タッチ操作によるワイドスクリーンのiPod」「革新的な携帯電話」「画期的なインターネット・コミュニケーションデバイス」の3つの製品を一体化した端末であると述べ、「電話を再発明する」と発表した。翌年、日本を含む22カ国でiPhone 3Gが、発売された。それから、15年過ぎたわけだが、もはや、発表時の「電話の再発明」との枠組みを遥かに超えた使われ方をしている。
イノベーションとは、「新しい組合せによって、これまでにない価値を創造し、不可逆的な行動変容をもたらすこと」とされる。まさに私たちは、iPhoneによってもたらされた新しい組合せによって、それ以前には戻れなくなってしましたのだ。
しかし、発売当初、だれもがこれを「イノベーション」と捉えていたわけではない。例えば、iPhoneが日本で発売されるとき、「専門家」たちが、次のようなことを述べていたことを記憶している。
- 折りたためず液晶画面が汚れてしまう。そんなものは、誰も使いたくないだろう。
- 絵文字も使えず、お財布携帯も使えない。そんなものを誰が使うのか。
- インターネットを使うのなら、もう既にi-modeがある。特に目新しいわけではない。
ジョブズは、iPhoneを「電話を再発明」と述べたわけだが、いま想えば、それは間違っていたのかも知れない。むしろ、「パソコンの再発明」ではなかったのだろうか。
小型で携帯可能な、インターネットに常時接続しているパソコン。
アプリを入れれば、どんな機械にでも変身する。例えば、電話のアプリを入れれば「電話機」に、カメラのアプリを入れれば「カメラ」に、決済のアプリを入れれば「お財布」に、と言った具合に、アプリ次第でいろいろな役割を果たす機械に変わるパソコンであり、これをインチーネットに常時接続し、小型軽量化して、持ち運び可能にした。
ChatGPTの登場もまた、そんなイノベーションの予感がある。
- シラッと平気でウソをつく。まともに使えるものではない。
- 機密情報漏洩の可能性がある。そんなものは仕事では使えない。
- 人間が考えなくなる。子どもに使わせるべきではない。
その通りだと思う。しかし、iPhoneが、そうであったように、様々な課題は克服され、新たな用途が発明されたことで、スマートフォンは、いまや生活に欠かせない存在となった。
登場して間もないモノが、まともであるはずはない。しかし、世の中が、これを受け入れるのは、プラス/マイナスのプラスに期待し、マイナスを克服してプラスに磨きをかけてきたからだ。
いまだ、スマートホンにもマイナスの要素はある。しかし、マイナスを凌駕して有り余るプラスがあるからこそ、私たちはそれを使い続けている。
ChatGPTは、よくできたチャット・ボットである。それ以上に注目すべきは、その土台となっている、LLM(大規模言語モデル)であろう。ChatGPTはその応用例のひとつだ。むしろ注目すべきは、DeepMindのGatoやOpenAIのGPT-4などのマルチモーダルAI、そして、まもなく登場するであろうAGI(汎用AI)である。これにより、これまでSFでしかなかった世界を現実に引き寄せた。もしかしたらハラリの言う「ホモデウス」へのステップなのかも知れない。
2012年6月、グーグルが発表した「キャットペーパー」と呼ばれる衝撃的な論文によって、ディープラーニングの関心が一気に高まった。この論文で、コンピューターが猫を認識する能力を身につけることができることを示した。それから10年してChatGPTが登場し、ディプラーニングの新たな可能性が示された。そして、次の10年、つまり2033には、何が登場するのかと考えると、ワクワクする。
いま中学生になったばかりの子ども達が社会人になる歳である。その時には、いまはない職業があるだろう。いまやスマホが当たり前の働き方や日常となっているが、同様にAIが当たり前の働き方や日常へと溶け込んでいるだろう。
これを拒んでも仕方がない。来るものは来る。ならば、これを先取りして使いこなし、味方に付けることが賢明だ。
ITに関わる仕事をしていながら、いまだクラウドに抵抗を示し、サーバーレスやコンテナ、マイクロサービスと言った言葉についても、まともに語れない人がいる。当然ながら、LLMも基盤モデルも語れないだろう。本当にそれでいいのか?そんなことをしているうちに、また新しいテクノロジーが登場し、常識を上書きしてしまう。この変化に俊敏に対処して、テクノロジーをどんどんと味方に組み入れることを、当たり前の日常にすることこそが、DXの目指すべき本質であると、私は思っている。
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