ブロックチェーンやWeb3、メタバースや生成AIは「便利な道具」に留まらない
ブロックチェーンやWeb3、メタバースや生成AIといったキーワードが、いま世間を賑わしていますが、これを、新しい「便利な道具」程度にしか捉えるべきではありません。なぜなら、これまでの社会やビジネスのあり方を再定義する大きな力となる可能性があるからです。
ブロックチェーンは、取引や組織のあり方を根本的に変えようとしています。例えば、通貨は、信頼できる中央銀行が、その価値が保証するから、私たちは安心して使えます。しかし、ブロックチェーンを使う仮想通貨は、そういう信頼できる中央銀行に頼らずに価値を保証しています。このように、ブロックチェーンを使えば、特定の信頼できる管理監督者がいなくても、取引の正当性を保証することができます。
そんなブロックチェーンを使って、特定の管理監督者(=社長)のいない会社組織を実現しているのが、DAO(Decentralized Autonomous Organization/分散型自律組織)です。また、銀行のような金融機関を介することなく金融取引を実現するのがDeFi(Decentralized Finance/分散型金融)です。このような、ブロックチェーンを使って特定の管理監督者や運営者を置くことなく自律的に機能する様々なサービス群をWeb3と呼びます。
コロナ禍やウクライナ戦争による社会不安、世界の多極化による不確実性の高まりは、国家や政府機関に頼ることの危うさを露呈させました。テック企業のリストの拡大やそんなテック企業への融資で著名なシリコンバレーバンクの破綻といった既存の社会システムの変曲点となるような出来事が、立て続けに起きています。ブロックチェーンやWeb3が、既存の社会システムを直ちに置き換えることはないにしても、大きな影響力を持つようになることは、想像に難くありません。
メタバースが作り出す世界は、ネットゲームの世界とは異なり、予め用意されたシナリオがありません。我々が住む現実社会と同様に、誰もが自由に参加でき、社会活動や経済活動ができるインターネット上の世界です。
いまでこそ高性能のパソコンと大きなゴーグルを被らなければ、CGで作られた仮想世界であるメタバースに入ることはできませんが、近い将来、このような制約はなくなるでしょう。
軽量なメガネ型デバイスや携帯可能な高性能コンピューター、高速ネットワーク回線の普及により、4Kや8Kの高解像度で描かれた自分を現実世界と重ね合わせた仮想世界に置いて、様々な活動が可能になるはずです。現実世界と仮想世界の関係は、曖昧になります。これを可能とする「ホロポーテーション」と呼ばれる技術は、既に実現しています。
つまり、メタバースは、現実世界と地続きな独自の世界、すなわち現実世界と並行して存在する「パラレル・ワールド」として、その存在感を高めていくはずです。これは、現実世界とは別の新しい社会や経済の基盤が、登場することを意味しています。
社会や経済は、これまで地理的なグロバリゼーションの波にさらされてきました。ここにメタバースという仮想世界が加わり、グローバリゼーションという概念の再定義が、求められるかもしれません。
生成AIもいまでこそ、平易な文章で質問に答えてくれる、あるいは、文章を入れれば画像増や動画を生成してくれるといった特定のデータ形式の組合せしか扱うことはできません。しかし、多様なデータ形式を自在に組合せ、様々な問いかけや依頼に対して、専門家として、アドハイスを与え、多様なカタチでアウトプットを生成してくれるようになるのは、時間の問題でしょう。マルチモーダルAIあるいは、その先にある汎用AI(AGI/Artificial General Intelligence)に発展していく可能性があります。
そのうち、タイトルとあらすじ、登場人物の特徴などを入力すれば、脚本を自動生成し、ヒット間違えなしの映画(動画)を作ってくれる時代もやってくるかも知れません。一気にそこまで行くかどうかは別として、このプロセスに関わる技術が、段階的に登場することは間違えないでしょう。
ITは人間にしかできないとされてきた仕事を代替し、人間とITの新たな役割分担を模索しなければなりません。そうなれば、働き方や生き方、つまり、人間として生きることの意味さえ、再定義が求められることになるはずです。
ITの進化や発展が、社会やビジネスに及ぼす影響は、ここに上げたことに留まることはありません。この現実に対処してゆくことができなければ、企業は、成長以前に存続さえ危うくなります。もはやITは、「便利な道具実」の域を超えて、「新しいビジネスや社会の原理」へと、その位置づけを拡げつつあるのです。
確かに、いまのWeb3には、胡散臭さがただよっています。詐欺まがいの取引や仮想通貨の価値の投機的な乱高下など、話題となっています。しかし、この胡散臭さは、インターネットの黎明期にもあったことで、Web3もいま、そんな黎明期にあると考えることができるでしょう。
ブロックチェーンや、これを利用したサービス群であるWeb3は、既存常識から逸脱しています。それが理解できている人と理解できていない人がいるからこそ、そのギャップに山師達が入り込む余地を与えているのだと思います。
見方を変えれば、それたけ世の中を変える可能性を秘めているわけで、テクノロジーの本質を正しく理解して、その先にある未来の可能性を読みとり、いち早く備えておくことが、大切になるのだと思います。
メタバースや生成AIも、未だ黎明期であり、多くの課題を抱えていることは確かです。だからこそ、その課題を解決し、うまくいかせる企業が、新たなビジネスの可能性を手にすることができるのではないでしょうか。
2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
- 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー