「予測符号化理論(Predictive Coding Theory)」という脳科学の理論があります。これは、目に入ってきた情報が、一方通行で脳の視覚領域に送られて、そのイメージを作り出すのではなく、予め脳の視覚領域に予測イメージが作られ、それと視覚からの情報との差分のみを検出し、それだけを視覚領域で情報処理するのだというのです。つまり、何を見るのかは、予め脳が用意し、入力との差分だけを脳で処理しているというわけです。
脳は、人間の臓器のなかで最もエネルギーを消費します。つまり、考えることは、とても大きな負担になり、これを少しでも減らすために、このような仕組みが備わっているというわけです。これは視覚だけではなく、外界の情報を処理する基本的な仕組みとなっているそうです。
私たちは、経験と時間のかけ算によって、「これが当たり前」、「こうすることが当然」という認知の枠組みを自然と作り上げています。私たちは、まずはその枠組みで、ものごとを理解しようとします。その方が、脳に負担がかからずに楽だからです。その差異が小さければ、現実に合わせて修正もできますが、差異が大きくなり、脳の負担が増えると次のような3つの行動をとります。
- 情報処理を拒む(=思考停止)
- 思考の負担を減らす(=都合がいいように解釈する)
- 差分を拒否する(=抵抗する)
このような行動は、脳科学的にも理にかなっていると言えるでしょう。
テクノロジーが、これまでのビジネスのあり方を大きく、しかも急速に変えつつあるいま、この変化に抗おうとするのは、とても自然なことのように思います。この現状をまずは受け入れるしかありません。
だからこそ、他人を何らかの力で強引に変えようとするのではなく、変わりたいという内発的な動機付けを引き出し、自発的な行動に変えていくための取り組みが必要です。そのための最も有効な手立ては、「自分を変革」し、相手の共感を引き出すことだと思います。
変革の必要性を感じているのなら、まずは自分で、あるいは、自分のチームで、そんな取り組みを始めてはどうでしょう。例えば、次のようなやり方です。
チームの心理的安全性を向上させる
ある営業チームのリーダーが、自分のチームの心理的安全性を高めたいと考えていました。そこで、メンバー全員で、心理的安全性についての勉強会を開くことにしました。学んだことを実践するために、やりたいこと、あるいは、これまでの行動で改めたいことなどを洗い出し、書き出しました。それをチーム全員が見えるところに張り出し、週1回のミーティングでふり返り、KPTで管理することにしました。
KPTとは下記のようなフレームワークでアクションプランを管理していこうというものです。
- K:keep = これは良かったから、今後も続けよう
- P:problem= これは悪かったから、今後はやめよう
- T:try = これに新しく気がついたので、次に挑戦しよう
徐々に成果も上がり始め、これを発信しようとしたのですが、社内ではその手段がありません。そこで、パブリックなブログを使い、自分たちのやってきたことや失敗談を外部に発信しはじめました。それを見た社員の中に興味を持つ人が現れ、徐々に賛同者が増えていったそうです。そういう賛同者を集め、さらには社外で同様の取り組みをしている人たちを集めて、勉強会や情報交流の機会を作り、仲間を増やしていったそうです。結果として、彼らの取り組みは、経営者にも届き、全社的な取り組みとして、定着したそうです。
新しいツールを使い生産性を向上させる
新卒2年目のエンジニアが、あるツールが便利だと言うことに気がつきました。これは、うちの会社でも使った方がいいと、上司に進言しましたが、うちにはうちのやり方があるので、それは使えないと言われたそうです。そこで彼は、俄然ファイトが湧いて、ならば自分で使ってその有用性を実証することにしようと、こっそりと使い始めました。その結果、彼の仕事は、早くて丁寧だといううわさが広がり、どうしているのかと先輩諸氏からも聞かれるようになり、その理由やツールの使い方を説明し続けました。そのうち仲間が増えていき、上司も無視できなくなり、「これいいねぇ」となって、いまでは、社内の標準ツールとして使われているそうです。
- まずは自分で行動を起こす
- やっていることを発信する
- 共感者を巻き込み仲間を増やす
いずれもそんなステップで、変化を生みだしているわけです。
会社や他人に変革や変化を声高に求める人は沢山います。そういう人たちのどれくらいの人が、自分の変革に取り組んでいるのでしょうか。まわりに、あるいは自分の所属する組織にすがって自分を変革しようなんて、虫が良すぎる気がします。そのために相手や会社の批判を重ね、まずは公的な方針やルールを変えることを求め、それがかなったのならば自分もそれに従いますという態度は、違うように思います。
時間はかかるかも知れません。しかし、先に述べたように、世の中の常識が大きく変わってしまったことを受け入れることは、脳科学の知見からも、なかなか大変なことです。だから、変革を進めたいのなら、そう考える本人がまずは行動し、相手に気付かせ、興味や関心、共感を引き出し、内発的な動機を導いて、自発的な行動に駆り立てるしかないように思います。
だれかを変えたければ、先ずは自分を変えよ!
まずはここから始めてはどうでしょう。
DX疲れにうんざりしている。Web3の胡散臭さが鼻につく。
このような方もいらっしゃるかもしれませんね。では、伺いたいのですが、次の3つの問いに、あなたならどのように答えますか。
- DXとはこれまでのIT化/コンピューター化/デジタル化と何が違うのでしょうか。
- デジタル化やDXに使われる「デジタル」とは、ビジネスにとって、どのような役割を果たし、いかなる価値を生みだすのでしょうか。
- Web3の金融サービス(DeFi)で取引される金額はおよそ10兆円、国家が通貨として発行していないデジタル通貨は500兆円にも達し、日本のGDPと同じくらいの規模にまで膨らんでいます。なぜ、このような急激な変化が起きているのでしょうか。
言葉の背景にある現実や本質、ビジネスとの関係を理解しないままに、言葉だけで議論しようとするから、うんざりしたり、胡散臭く感じたりするのかもしれせん。
ITに関わり、ビジネスに活かしていこうというのなら、このようなことでは、困ってしまいます。
ITソリューション塾は、ITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えすることに留まらず、その背景や本質、ビジネスとの関係をわかりやすく解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
そんな皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- 期間:2023年2月16日(木)〜最終回4月26日(水) 全10回+特別補講
- 時間:毎週(原則水曜日) 18:30-20:30 の2時間
- 方法:オンライン(Zoom)
- 費用:90,000円(税込み 99,000円)
- 内容:
- デジタル・トランスフォーメーションの本質と「共創」戦略
- ソフトウェア化するインフラとクラウド・コンピューティング
- DXの基盤となるIoT(モノのインターネット)と5G
- データを価値に変えるAI(人工知能)とデータサイエンス
- おさえておきたい注目のテクノロジー
- 加速するビジネス・スピードに対処する開発と運用
- デジタル・サービス提供の実践
- クラウド/DevOps戦略の実践
- 経営のためのセキュリティの基礎と本質
- 総括・これからのITビジネス戦略
- 特別補講 *選任中*
詳しくは、こちらをご覧下さい。