営業力は伝達力
どんなにすばらしい中身でも、それをうまく伝えられなければ、何の役にも立たない。例えば、時間をかけて説明して「それで結論はどういうことなの?」と聞き返されることもあれば、「なるほど、もう少し詳しく聞かせて」とすぐに相手から反応が返ってくる場合もある。
「ちゃんと伝えましたよ」と伝えたという行為を報告しても意味が無い。伝わった真実を確認できてこそ、その行為に意味がある。
伝えたという自分の事実ではなく、伝わったという相手の真実が大切である
この目的を達成するためには、伝達力を磨かなければならない。
「伝達力」は、筋書き、見せ方、応対の3つの要素で構成される。「筋書き」とは流れであり展開だ。いろいろと考えられるが、営業が心得ておくと便利な「流れ」が3つある。最初は、結論を明確に伝えたと後、具体的な説明に入る展開、次は現状や相手の否定、あるいは問題点の指摘から入り、その解消方法を示す展開、最後は「今日はこの3点について話をさせて頂きます」とまずは目次を示す展開だ。これからを組み合わせることもできる。
この3つのやり方に共通することは「相手に話しを聞く心構えをさせる」ことだ。例えば、「結論から先に伝える」やり方は、その結論が興味深いものであれば、その先を訊きたいと思うだろう。「脅しから入る」やり方は相手に「これは聞いておかないとヤバい」と思わせ耳を傾けようという気持ちにさせる。最後の「目次を示す」やり方はこれからの話しの展開を予測でき、聞くためのアタマを準備させることができる。そうやって、聞く心構えをさせておくことで、「聞きたい」という自発性を引き出そうというわけだ。だれも押しつけは好きではないが、自分から聞きたいことであれば、真剣に聞き耳を立てる。そんな状態をこちらから作ってあげることが大切になる。もちろんその後の論理性も考えておかなければ、結局は伝わらないが、ここはだれもが気がつくところだろう。だからこそ、最初の切り出しをうまくできれば、その論理性は相手にしっかりと伝わることになる。
次の「見せ方」は、「美しく」が大原則だ。「美しい」とは説明資料のレイアウト、色使い、丁寧さなどの要素で決まる。また、文章表現や言葉遣いなども含まれる。例えば、シミなのか模様なのか分からないくらいにビッシリと文字を書き込んだプレゼンテーション、一貫性のないちぐはぐなイラスト、色使いや配置、フォントなどに意味も気遣いも一貫性もないチャートなど、よくもこんなに汚い説明資料を作ってきたなと感心させられることがある。これでは相手の心のレンズに煤のべっとりとした膜を作るようなものだ。また、見せている資料と話の内容に飛躍がある、あるいは順序が揃っていないといったこともある。これではせっかくの「流れ」をかき乱し、相手の心にガサガサとした混乱やストレスを与えてしまい、「なんかいやだ=拒否」の気持ちを高めてしまうことになる。
相手を気持ちよくさせなくてはいけない。そして、こちらに惹き付けるのだ。そのためにも美しさで相手を魅了する。それは、見せる資料だけではなく、語る言葉もまた然り。両者を極めてこそ、相手は、のめり込んでこちらの伝えたいことを受け入れようとしてくれる。
最後は「応対」だ。応対とは、相手の変化に敏感に反応することをいう。昨日「想像力」について書いたが、伝えている相手の表情や態度から、相手の心の動きを察知しそれに適切に反応することができなくてはいけない。例えば、資料を読み飛ばしているとすれば、早く結論を知りたいのかもしれない。一瞬目をつぶり考え込むような態度をとるようであれば、こちらの話しに関心が無いのかもしれない。そういうときは、一瞬の間をおき沈黙してみる、質問や確認の言葉を相手に投げかけるなど、臨機応変に状況に反応することだ。直接的な言葉ではないが、「対話」し続けることが、相手の心をこちらに向かわせることになる。
伝わらないのはこちらに責任がある。伝わるように伝えていないのだ。伝える相手はいつも違う。同じ相手であっても、そのときの相手の状況や立場が変われば「相手が違う」と考えるべきだろう。その違いを受け入れ、それに合わせた伝え方をしてこそ相手に伝わる。なかなか大変なことだと思われるかもしれないが、相手に伝えることができなければ、営業は仕事にならないと心得よ。
伝えたという自分の事実ではなく、伝わったという相手の真実が大切である
この原則を全うすることが「伝達力」の目的と言えるだろう。
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