主要ソリューションの統合とAI融合が進む国内iPaaS市場の成長メカニズム
企業におけるSaaSの利用拡大が進むなか、従来のオンプレミス環境を含めたシステム間連携の負担や、飛躍的に増加するデータへの対応が課題として生じています。
AI活用の広がりとともにデータ基盤としての役割が高まるいま、自社の統合基盤の方向性を判断することが求められています。
本件の理解にあたっては、市場の拡大背景と将来予測、AI活用の拡大に伴う連携基盤の役割拡張、セキュリティや可視性を高める機能拡充という三つの視点が重要です。
今回は、2025年度に82億円規模へ達したiPaaS市場の成長要因、生成AIやAIエージェントとの融合による業務プロセスの自動化、セキュリティ機能やオブザーバビリティの拡充による影響、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。
売上金額82億円に達したiPaaS市場と中長期の成長予測
株式会社アイ・ティ・アールが実施した調査によると、国内のiPaaS(Integration Platform as a Service)市場における2025年度の売上金額は82億円となり、前年度比18.0%増という高い成長を示しました。この成長傾向は2026年度も引き続き維持される見込みであり、同社は2025年度から2030年度までの年平均成長率(CAGR)を20.7%と予測しています。
国内56ベンダーへの調査に基づく『ITR Market View:RPA/iPaaS/ワークフロー市場2026』では、RPAやBPM、ワークフローなどの周辺分野を含めた自動化関連市場の動向が分析されています。そのなかでiPaaS市場が前年度比18.0%増という二桁成長を記録した事実は、企業におけるデータおよびシステム連携の需要が一時的な流行にとどまらず、中期的なインフラ投資の対象として定着している状況を示しています。
2030年度に向けて年平均成長率20.7%で成長を続けるという予測は、個別のシステム導入期からシステム全体の相互接続期への移行が進んでいることを反映しています。売上数値の推移は、企業が個別の作業効率化から組織横断的なデータ連携へと軸足を移しつつあることの判断材料になります。個別のツール最適化ではなく、企業システム全体を視野に入れた接続基盤の選定が次に問われる局面となっています。
SaaS利用拡大とオンプレミス環境の統合が生む連携需要
iPaaS市場が高成長を記録している背景には、企業におけるSaaS利用の急速な広がりの影響があります。多くの企業で部門ごとに異なるSaaSの導入が進む一方で、従来から運用されてきたオンプレミス環境とのデータ連携ニーズが高まっており、活用領域の拡大につながっています。
システム環境の多様化に伴い、機能の高度化や新しい製品およびサービスの登場、さらには主要ソリューション間の統合が進展しています。これにより、従来の接続領域における価値の着実な高まりが確認されています。システム同士を接続するにとどまらず、データ処理の効率化や運用負担の軽減を実現する手段としてiPaaSの重要性が認知されてきたといえます。
これまで個別構築されがちであった連携の仕組みを共通基盤へと集約する動きは、システム運用の複雑化を回避するために不可欠なプロセスです。しかし、多様な環境を接続しようとするほど、各システム間のデータフォーマットの差異や処理のタイミングの違いといった実務上の制約が顕在化します。企業には、短期的な接続にとどまらず、拡張性と安定性を兼ね備えた基盤の構築をどのような優先順位で進めるかという判断が求められています。
AI活用に伴う流通データ増加とセキュリティ確保の制約
AI活用の拡大によって、企業の内外で流通するデータは量と種類ともに飛躍的な増加をみせています。データ量の増加はAIモデルの利活用を後押しする一方で、異なるシステムやサービスを安全かつ確実に連携するための基盤としての役割をより重いものにしています。
データが複数のクラウド環境やオンプレミスシステムを横断して流通するようになると、アクセス制御やデータのトレーサビリティの確保が実務上の大きな課題として現れます。これに対してiPaaSの機能拡充が求められており、データカタログやデータの履歴を把握するリネージ機能、詳細なアクセス制御といったセキュリティ機能の強化が進むとみられています。
また、システム全体の動作状態を監視して問題を早期に把握するオブザーバビリティの装備も、運用基盤としての完成度を高める重要な要素となります。これらの高度なセキュリティ機能および監視機能の拡充は、データ流出のリスク低減やコンプライアンス遵守の観点から欠かせない要素です。企業が安全なAI活用を進めるにあたっては、連携基盤自体が十分な統制機能と監視機能を備えているかを評価する視点が欠かせません。
生成AIやAIエージェントの融合と業務プロセス自動化の進化
今後のiPaaS市場における大きな転換点として位置づけられるのが、生成AIやAIエージェントとの融合です。従来の手動による連携設定やあらかじめ決められたワークフローの実行から、AIを活用した高度な自動化へと役割が拡大しつつあります。
iPaaSが生成AIやAIエージェントと結びつくことで、個別のアプリケーションやシステム間を跨いだ業務プロセスの自動化基盤へと進化していくことが想定されます。従来は判断を要したデータ連携の処理や、複数のシステムにまたがる複雑なタスクが自律的に処理される可能性が高まっています。
一方で、AIエージェントの自動実行に依存しすぎることは、処理プロセスのブラックボックス化や予期せぬエラーの波及という新たな不確実性をもたらす可能性があります。自動化の範囲を拡大する利便性と、人間による監視やセキュリティ統制を維持する厳格さのバランスをどのように取るかが評価の軸となります。企業は、AIエージェントを活用した自動化の範囲を段階的に見極め、適切な制御ルールを設計していく必要があります。
ユーザー層の拡大と中長期的な基盤選定における投資判断
iPaaSは機能の高度化やAI機能との統合を通じて価値を高めながら、ユーザー層を拡大し、中長期的な成長を続けると見込まれています。2025~2030年度のCAGR 20.7%という予測数値は、IT部門だけでなく事業部門主導のデータ活用においても接続基盤の必要性が浸透していく流れを裏付けています。
企業が今後のIT投資を進める上では、個別のSaaS導入費用だけでなく、システム間を接続し統制を維持するための基盤コストを計画に盛り込むことが重要です。データカタログやリネージ機能、オブザーバビリティの装備といった機能拡張が進むなかで、自社のセキュリティ要件やAI活用方針に適合する基盤を見極めることが成功の条件となります。
単一機能の製品を選択するか、主要ソリューションが統合された包含的な統合基盤を選択するかという選択肢の比較が重要です。経営者や事業責任者は、現在の課題解決にとどまらず、2030年に向けたAI活用の拡大とデータの安全な運用を見見据えた投資判断を迅速に行うことが求められています。
今後の展望
2030年度に向けてiPaaS市場が年平均成長率20.7%で成長を続ける過程では、SaaS利用のさらなる浸透と生成AIおよびAIエージェントの本格的な普及が同時に進行していきます。
これにより、従来のシステム連携機能は基本的なデータの受け渡しにとどまらず、データカタログやリネージによるガバナンスと、オブザーバビリティによるリアルタイムの状況把握をあわせ持った高度な業務自動化基盤へと発展していくことが想定されます。
企業がこの変化に対応するためには、AIの活用推進とセキュリティ統制を両立させる統合基盤のグランドデザインを早期に策定することが有効です。
既存のオンプレミス環境と多様なSaaSを包括的に接続し、膨大なデータを安全に運用できる環境を整えることが、今後の競争力を向上させる判断軸として重要となるでしょう。

