とてもロックなキリマンジェロの娘
マイルス・ディビスのリーダー作に、「キリマンジェロの娘」というタイトルのアルバムがある。ジャズ・ファンの間ではあまり評価が高くないアルバムで、マイルス・ディビスのアルバムの中からを5枚選ぶという企画があっても、まず選ばれることがないアルバムだ。
それも当然の話で、録音は1968年。あの「イン・ア・サイレント・ウェイ」の1年前に録音されたということもあって、どうしても地味な印象が拭えない。ところが、実際に聴いてみると、これが実に良いアルバムなのだ。さすがにベスト5に選ぶまではいかないが、ベスト10には間違いなく選ぶと思うお気に入りのアルバムである。
メンバー的にはかなり不安定な状態にになっている。黄金のクインテットに、チック・コリアとデイヴ・ホランドが加わっているせいか、アルバム全体のまとまりといった面でも確かにいま一つかもしれない。ただ、このアルバムの凄いところは、ロックなマイルス・バンドの演奏が聴けるというところである。ロックさ加減でいえば、実は「イン・ア・サイレント・ウェイ」以上だと言っていいかもしれない。
「イン・ア・サイレント・ウェイ」あたりの演奏が好きな人には、文句なしにお薦めのアルバムだ。マイルスもウェイン・ショーターももちろん素晴らしいのだが、このアルバムで最高の演奏を聴かせてくれているのは、ドラムのトニー・ウィリアムス。このアルバムでも、一人でロックしている。
もう一つこの「キリマンジェロの娘」というアルバムには特徴がある。それは、収録されている5曲すべてが、マイルスのオリジナル曲だということ。これは本当に珍しいことである。当時は、ウェイン・ショーターの曲を取り上げることが多かったので、全曲マイルスのオリジナルで占められているというのは本当に意外だ。
黄金のクインテットが崩壊寸前の危ういマイルス。一度はまると病みつきになってしまう。