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文学部出身のライターとして取材現場などで勝手に感じた文化の匂いをお届けしたい

文化に変わったIT

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はじめまして、ナッツ高橋です。自己紹介も兼ねて、最初の記事を投稿します。

「日本のIT文化を創造したい」というのが、業界誌などからインタビューを受ける際に、私が使っていた決まり文句でした。もう10年以上前のことです。

勿論、知恵も勇気もお金もない私にできることはたかが知れていました。せいぜい、日本で初めてITキーワードを網羅して簡単に解説した「ITキーワード100」を出版したり、ビジネスマン向けにITのコンセプトを解説した「タスクIT新書」を18冊ほど出版したくらいです。

ちなみに「タスクIT新書」の創刊は1997年。1冊で1つのコンセプトを解説したワンテーマブックで、「ERP」や「データウェアハウス」、「CRM」、「SCM」といった主要なものは、最初の1年目に発刊しました。当時、書店の方たちからは「イット新書」と呼ばれていました。時の総理大臣、森嘉朗氏も同じレベルでした。

しかし、今、私とはまったく関係なく、ITは見事に“文化”に変わったと思います。格差はあるにせよ、多くの人がITを利用し、ITの恩恵を受け、良い悪いは別にして、ITによってライフスタイルやワークスタイルは変わりました。10年前に、見積書をメールで提出するように私が指示した際に、営業の責任者の専務が「お客さんに失礼です」と反論してきたことも、今となっては笑い話です。

ただ、これだけITが当たり前になると、文化の香りが消えてしまうから不思議です。文化っぽさというのでしょうか、昔のもったいぶった、何となく憧れるような気分を味わうことが少なくなりました。それでも、なるほど、これはITらしいや、と取材をしていてふと感じる時があります。このコラムでは、それを題材に記事を書いてみるつもりです。皆さんの暇つぶしになれば幸いです。

ちなみに、先日、ある勉強会に出席しました。以前から、ある方が私に紹介したいと話されていた人物が講師をされるというので、場違いを承知で参加してみたのです。テーマは「Analytics」。Analyticsとは、“最後のAnalysis”のことで、天文学に始まったAnalysisは、DNAを研究する生き物のAnalysisに進化し、人間の行動を予測する“最後のAnalysis”であるAnalyticsに至るというお話でした。

講師の方は流体解析の専門家で、たまたま過去に私と何度かニアミスをしていたことから、懇親会では親しく会話していただけたことは望外の喜びでしたが、久しぶりに難しい話を聞いた私は、頭のヒューズが切れる思いがしていました。

ただ、そこにはIT文化の香りがありました。確かに、大昔、普通の人が持てない知識や技術を駆使して占星術師と呼ばれた人たちが、「あなたは、明日北北東に行けば良い買い物ができるだろう」と告げるのと同じことを、今の私たちはコンピュータという武器を使って行おうとしていると考えると愉快な気がしてきます。

今、マーケティングの世界では、AIDMAではなく、AISASへと消費者の購買行動が変化したと言われています。ネットで評判を知り、疑似体験をした上で購入し、さらにその情報を共有する、なるほど理に適った行動です。しかし、ITの裏の仕組みを見てみると、ちょっと違うのでは、と思うこともあります。使われているデータが膨大なために、結果からは間違いが見えてきません。これは占星術師の道具が、普通の人に分からなかったのと同じです。

ITは人間にとって便利な道具です。だからこそ、ITを使うのですが、依存するのは避けたいところです。何よりも、ITに自分の行動の先を読まれることは悔しいではありませんか。そんな想いをどこかに持っておくことが、IT文化の中を生きる知恵なのではないかも知れません。

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