GyaOとYahoo動画の統合はSilverlightとFlashの戦いにどう影響するか?
事業統合の狙いを勝手に妄想してみるシリーズ第二弾。
昨日発表のあったYahoo動画によるGyaOの統合について触れておきたい。
(第一弾キーエンスとジャストシステムはコチラ)
まず、動画配信事業の事業特性を俯瞰してみよう。
「著作権者を尊重する、圧倒的ナンバーワン動画配信プラットフォームを作る」という
発表の意気込みから、規模の経済がききそうであること、著作権の扱いが問題に
なっていると少なくとも事業社当人は捉えていることの2点が窺える。
規模の経済の観点で見ると相当厳しい事業のようにみえる。
Yahooの井上社長をして「動画はもうかっているとは言い難い」さらに、
GyaOは50億円程度の売上で20億円超の営業赤字と発表されており、
それぞれ1100万人の月間利用、2200万人の登録ユーザーを抱えながらも、
まだ損益分岐には至っていないということなのだろう。
となると、かなり少数の大規模プレーヤーしか生き残ることはできず、いずれかの陣営が
「圧倒的」となるレベルに達するまで事業統合が繰り返される可能性もある。
コスト構造は明らかにされていないが、それほど多くの人件費がかかるビジネスとも思えず、
ストリーミングのインフラ(サーバー、ネットワーク)、コンテンツの買い付けや製作、
ユーザー獲得のためのプロモーションなどに多くが費やされるのだろう。
コンテンツ権利の一括購入やプロモーションの効率化でカイゼンは行えるだろうが、
黒字化して事業を継続するためには思い切った削減が必要であり、サーバー統合と
技術革新でインフラコストをいかに劇的に下げられるかが課題だろう。
また、著作権の扱いという視点を加えると、動画配信という事業は
YouTubeやニコニコ動画のような投稿型と、YahooとGyaOが目指す権利尊重型に
分けて考えるべきなのだろう。上記コスト構造は権利尊重型の場合であり、
投稿型ではまた事情が異なる。
投稿型が普及した理由を「権利処理した動画サイトに十分なコンテンツと利用者が育って
いなかったこと」と井上社長はコメントしているが、ここには技術的課題も存在する。
その必要性が叫ばれて久しいDRM(Digital Rights Management)の問題だ。
DRMの技術レベルや普及率の低さが一部ユーザーによる投稿型の不正利用を助長し、
権利尊重型のビジネスによからぬ影響を及ぼしている。
ここでようやくFlash対Silverlightの話となる。
FlashによるFLV配信がゆるぎない標準のように感じている人もいるかもしれないが、
規模の経済が必要で、著作権を重視することがビジネスニーズなのであれば、
仮想化やクラウド技術、DRMを標準で備えたマイクロソフト陣営に有利な戦況といえる。
今でこそFlash対Silverlightと当たり前のように言っているが、1996年から10年以上
展開しているFlashに対し、Silverlightは2007年9月に世に出てからまだ2年もたっていない。
SharepointがLotus Notes/Dominoに対抗できるようになるまで5年以上を要したが、
MIXで発表されたSilverlight3により、SilverlightはFlash対抗を2年でやってのけようとしてる。
H.264高解像度対応やオフライン再生などにも対応することで、もはやプレーヤーや
開発環境の技術としての優劣の勝負は終わりつつある。
そして、マイクロソフトの強みはSilverlight単体ではなくその総合力にある。
DRM技術はそもそも文書管理などの用途で必要とされており、機能・パフォーマンス・
ユーザービリティなどの観点で今後も改善が期待される領域である。
また、クラウド側のリソースを利用したストリーミング配信やエンコーディングで
より効率的な運営を支援することもできる。
さらに、.NET開発者がデザイナーとの分業によりロジックやUIを構成するXAMLを
扱えることもコンテンツのメンテナンス性を考えるとジャブで効いてくる要素である。
最後に、今回事業統合する両社の近年の動きを見て「時の流れ」を感じていただきたい。
映画予告を動画配信
GyaOがMS「Silverlight」採用――Flash Video落選のわけは?
動画配信や対応サービスを展開
Yahoo! JAPANがSilverlight採用へ
(その後、日本優勝で盛り上がったWBCのコンテンツ配信などでも活用されている)
とはいえ、どのような技術領域においても標準をとることは非常に難しい。
Adobe側もCatalystを準備しており、今後しばらく標準化争いは続くと思われる。
今回のような動画配信事業社の戦略が、FlashとSilverlightのミリタリー
バランスに大きく影響を及ぼしているのである。
その間、互換性などの問題でユーザーにとっては不便なこともあるかもしれないが、
結果もたらされるテクノロジーの進展のためしばしご辛抱いただきたい。
カリウス「この海はまだ若いのです。波が穏やかになるには、まだ…。」
アナベル・ガトー「そうだな…。私はただ駆け抜けるだけのことだ」