【IIJがエクスレイヤ・グローバルを子会社化】-M&Aディール視点で見るケイパビリティ解説-
皆様こんにちわ。鈴与シンワート株式会社の正林です。
4月2日にインターネットイニシアティブ社がエクスレイヤ・グローバル社の子会社化を発表しエクスレイヤ・グローバル社は「IIJエクスレイヤ」と社名を変えることになりました。
IIJはその名の通り、国内のインターネット市場あるいはサービスを牽引してイニシアティブをとって来た企業。一般的にはISP(インターネット・サービス・プロバイダー)事業が知られるところですが、クラウドというキーワードが氾濫する以前から、クラウド的志向のビジネスモデルを構築してきています。
現在は、ISP事業のほか、クラウドコンピューティング事業として「IIJ GIO」を提供する他、エンタープライズ層の企業や官公庁など高度なプラットフォームSIと運用サービスを手がけています。
今回、IIJ社がIIJエクスレイヤ子会社化によって目指したケイパビリティ(企業価値向上)は同社の発表にあるような「グローバル」を見据えたものに間違いは無いでしょう。IIJエクスレイヤは海外拠点として
・イギリス
・ドイツ
・アメリカ
・シンガポール
・香港
と子会社を有しており、グローバルを中心に事業展開を行なってきたノウハウ、コネクション、ビジネススキルに高いものを有しています。IIJはこれを手中にしたことになり、本格的にグローバルを見据えた事業戦略を描いているはずです。
IIJについても海外にIIJ America を設立しており、主要株主としてヒーローアンドカンパニーが13%強の株式を取得しています。これはADRの観点から米国での企業活動を見据えたものであると容易に想像が出来ます。このような、兼ねてからからの念願であったグローバル進出に向けて大いなる足がかりを手にしたということになると思われます。
このディールはいわゆる「垂直統合型」といわれる部類に入るM&A展開と言えるでしょう。この「垂直統合型」について若干の説明をさせていただくと、M&A戦略の一つとしてケイパビリティの獲得のためのやり方として大きく二つに分類されます。
かなりざっくりと説明させていただきますがこの二つを説明すると
● 垂直統合型 : これは自社の経営資源、強みをベースに弱みを補完する企業を取り込むことで価値向上を狙うスタイル
>>>例えば、SI会社が上流のコンサル会社を取り込むことで上流工程からのアプローチに強みを見出すようなケースです。
● 水平統合型 : これは自社と類似する形態の事業行なう企業の強みを取り込むことでスケールメリットを狙うスタイル
>>>例えば、データセンター(DC)事業会社が他のDC事業会社を取り込んでスケールメリットによる強みを模索するようなスタイルです。
どちらのスタイルが正解ということは無いのですが、事業戦略に基づいてどちらの形態をとるかを決定することになります。
説明が少し長くなりましたが、IIJは海外という未開拓な市場に対して強みをもつ企業としてIIJエクスレイヤに期待をかけていることは間違いありません。また今回のディールに関してはIIJ単独の思惑だけでなく、主要株主として約30%の株式を取得しているNTTグループの思惑も大いに働いたと考えることが妥当だと考えます。
特にNTTコミュニケーションズは自らのバックボーンやノウハウを活かし市場拡大によるメリットの享受が期待できます。
しかしながら、一般的にM&Aによるケイパビリティ獲得の成功率は30%程度とも言われており、IIJエクスレイヤに関しても売上高は年商8億円規模ということもあり、売上としての貢献よりも海外事業展開におけるノウハウが実態としてどの程度影響力があるのかが問われることになるでしょう。
IIJエクスレイヤに関しては詳細な資料がなく、その詳細な収益性や知名度、コネクションは私は今のところ知ることが出来ないので意見を述べることは出来ないのですが、ロビー活動も含めた海外現地での影響力に期待したいところです。
M&Aの手法としては株式譲渡による買収スキームですので、子会社化による混乱、ハレーションは比較的少なかったはず(合併、事業譲渡等と比べれば)です。今後の事業推移いわゆるPMI(ポスト・マネージメント・インテグレーション)がこのディールの成功、失敗を決定するポイントになるはずだと考えています。
そして、私はこういったリスクを負って挑戦する姿勢に好感を覚えるし、密かに応援したいと思うのです。
<了>
-正林 俊介-
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