【M&Aといえば、NHKドラマ「ハゲタカ」みたいな『安く買って、高く売る!』ってイメージですか?】-実際は永遠に苦悩が続くタフでへヴィな仕事-
皆様こんにちわ。鈴与シンワート株式会社の正林です。
M&Aというと皆サマどんなイメージお持ちですか?
以前放送していたNHKドラマ「ハゲタカ」のドライで華やかな大人のイメージってのが割りと多いのではないでしょうか?
「安く買って、高く売るっ。これがオレ達の仕事だっ!」
「オレが判らせてやる。まだまだ、甘ちゃんなこの国に!」
「アラン!TOB(敵対的買収)の準備だ!」
みたいな。
でも、実際に携わってみると、これで中々へヴィー・タフな仕事なのです。本当にタフネス。シビアなフェーズはもう全身の力が抜けてしまいます。今回はその一部(差し障り無い範囲で)をご紹介したいと思います。
-スタートは決算書・財務諸表-
私のところには、数ヶ月に1件程度、多いときには月2件位、どこから見つけてくるのか「買いませんか企業リスト」がやってまいります。正確にはやってきたリストがとりあえず私のところに回ってきます。
リストを拝受してワタクシ、
「当社の経営戦略にマッチした事業であること」
「価値ある経営資源を有していること」
をチェックした上で、決算書・財務諸表を直近3期から5期分程度手に取るのです。
財務内容に関しては、最近の経済状況を鑑みて
「売上減少はある程度許容の範囲!」
「赤字決算は売買に出されている以上そんなこともあるっ」
ってまずはリストと共にある概要資料から、「進めます」「進めません」を報告書にしてご報告申し上げるのです。
それから「進めたまへ」って決まったら、ここからがM&Aディール着手開始!!!そして苦悩の日々がスタート。。
M&Aの実行プロセスは「デュー・デリジェンス(DD)」と呼ばれる手法に則った順序を踏む形になります。DDの目的としては企業の実態把握、内容確認、状態分析、シナジー測定などになりますが、具体的プロセスとしては以下の図のような形になります。
恐ろしいことに、このプロジェクトを私が実務責任者として具体的フレームを実行しているのであります(><)あわわわわ。あがっがが。
また、上の図にありますが、DDにも色々な観点がありますが大きくは「財務DD」「ビジネスDD」「法務DD」の3つでしょうか。
「財務DD」 > 財務状況を細かく分析、確認して内容の精査や簿外債務等を確認し評価していくプロセス
「ビジネスDD」 > 事業の収益性、将来性、シナジーを精査、分析して評価を行うプロセス
「法務DD」 > 産業財産権、や資産、借款等の権利、法務関連の制限や必要な手続きを確認、評価していくプロセス
その他にも、もっと詳細に
「ヒューマンDD」 > 労務規定等の確認や必要に応じた、規定統合のシナリオ策定、キーマンスコープの実施
「ITシステムDD」 > IT関連のライセンスや保有・利用システムの洗い出しと、統合による効率化や制限・リスクの洗い出しと評価
などの種別もあるようですが、これらは先に挙げた3つのDD内に包含されることも多いようです。
やはり重要なのは「ビジネスDD」に間違いないわけで、ここでされた事業価値の評価が買収価格やリスクをとってでも実行すべきという判断を導くことにもなるため、これの評価によって「財務DD」のリスク許容範囲も確定していくことになります。
これだけではなく、この間に「DAY1」「DAY100」などと呼ばれる実行後の体制を検討・すり合わせしていくことになります。
詳細は割愛しますが
「DAY1」・・・スキーム実行後1日目の経営体制などの策定。
「DAY100」・・・スキーム実行後100日を目処にした短期的ビジネスプラン策定。
のことです。
本稿では、いっちばん最初の取っ掛かりとなる「財務DD」のさわりをご紹介したいと思います。
-財務DD差し支えなく表現すると-
財務DDとは、超乱暴に申しますと決算書、財務諸表を読み込むということです。なんだよそれー、という無かれ。実務は本当に細かくて大変なのでございます。
当然ながら、財務諸表特に決算書をちゃんと読み込む訳ですが、おそらく事業ラインのかたはPLに目がいくと思います。売上、利益、原価なんかが表現されてますから、頭に入りやすい事業系の思考にあった内容が記述されてますから。私も最初はそうでした。
で、振り返ってB/Sこれが事業ライン出身の私としては「なーる」ってことが多く記載されているんです。
資産、負債、それらの実態。企業としての体力をみる、みたいなイメージでしょうか。なかなか面白き哉。
今さらですが、B/SとPLあってキャッシュフローも含めた全体像が分かるのね、フムフム。
ただ、その上で決算書というのが中々の曲者で、所詮はその時点情報すなわち、データベースで云うところ「スナップショット」に過ぎないため、その実態は実際のところどうなのかきっちりと、チェックする必要があるのです。
私が最初に注目する科目は、
*営業利益、雑収入 > 本業でちゃんと利益を出しているのか?そして原価戻入されてないものありませんか?
*借入金残高、自己資本比率 > 売買契約時の金額や株主交渉の難易度を予測。
*無形資産関連。有価証券関連資産 > 本当にこれだけの資産価値ありますか?
といったところです。これが全てという訳ではないですが、グループ会社のM&Aアドバイザー部門の方から「よくこれだけ一人でまとめましたねー」って褒められたので(軽く自慢です)それほど外れていないはずです。
当然これだけではないですが、科目を明細レベルで確認していくことになりますし、最も重要なのは簿外の債務が無いかということ。
簡単に言えば、隠し借金など無いかという事でしょうか。。
-実際のところ・タフな状況が永遠に続く-
このようなプロセスを先方の経営者と話をしていく訳ですが、これが作業量的にも精神的にも過酷な状況に陥ります。
当然ながら、話を進めていく間に人間関係が出来上がっていくので、資料を取り寄せる、準備をお願いする内容が、先方に「裸を見せろ」と言っているようなレベルになってくるため、「情に流されず、心遣いを怠らず」というデリケートな進め方になってきます。
また、矜持をもって運営してきた会社を安定やお金と引き換えに交渉していくことになるので、社長様はじめ関係者の思いはいかばかりか。と思いながら実行していく訳です。
買収価格算定、交渉は複雑な心情を内に秘めつつ、感情的にならずに行わなければならない、最もタフな状況です。当然、買収時における当社の会計処理をどうするか、どうなるかという点も考慮に入れながらの交渉となるので、どのような形態で実行することが最善かかなりシビアな検討を行う訳です。
で、私が思ったのは
「お互いのリスペクトなくしてディールの成功なし」
ってことでしょうか。
買収側は決して傲慢になってはいけない、売り手側は卑屈になってもいけない・プライドに捉われてもいけない。ビジネス・社員・株主など様々なステークホルダーに対して、真摯に臨むことが出来ればお互いをリスペクトしてディール実行をスムーズに行うことができるのだと感じているのであります。
ドラマ「ハゲタカ」みたいにドラマチックで華やかな感じにはもちろんいかない訳で。
交渉の途中で、先方のモチベーションが下がって破談。これよくあるらしいです。でワタクシ自身も実際この一年、なんのディールも成功できていないのであります!(←笑えない)
実際、結構つらい仕事っすよ。ネェ?と誰も居ない席に向かってつぶやいてみたりするのです。
機会があれば、その他のプロセスについてもご紹介させていただきます。
※当内容は経験をもとにM&Aディールプロセスを紹介するために構成したフィクションです。具体的M&Aディールに関わる事実の記載は一切ありません。予めご了承ください。
<了>
-正林 俊介-
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