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Chrome OSはWindows市場を浸食するOSではない。新しい市場を掘り起こすためのOSだ

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 本日付けのPC Watchに「ネットブックは大きな携帯端末か、それとも安いノートPCか」という記事を掲載しましたが、記事を書いた後に指圧に行ってゆっくりしていたところ、自宅に戻ってみると、GoogleがChrome OSを発表したという話題でtwitterクライアントが賑わっていた。なんでもNetbook向けの新OSなのだとか。
 ありゃりゃ、これは記事を書き換えないと間抜けな事になるかも?とニュースリリースを読んでみると、Webサービスを利用する事に特化した軽量OS(OSという言い方が正しいのかどうか、ここでは実は疑問もあるが)のようだ。
 これを受けての報道を見ると、どうしてもマイクロソフトとの対立軸を作っての比較論に発展させたい方が多いようだ。確かにマイクロソフトもNetbook分野でWindowsの商売はしているから、一部競合することは間違いない。しかし、だからといってGoogleによるマイクロソフトへの挑戦状と言い切るのは少々行きすぎだろう。
 WindowsとChrome OSは、それぞれに向いている使われ方が異なる(いや、Chrome OSはまだ登場していないから、"異なると思われる"が正しいか)。これを持ってマイクロソフトは端っこに追いやられるというのは、あまりに極端でOSとしての違いや、過去のコンピュータの歴史を無視している

 Chrome OSについて詳しくはニュースリリースでChrome OSに対する想像を膨らませてもらうとして、Chrome OSのコンセプトは90年代後半に話題になり、その後は急激に下火になったオラクルのNC(Network Computer)によく似ている。
 もちろん、NCは企業向けクライアントを強く意識したもので、対象としているユーザーやアプリケーションは異なる。当時とは技術基盤も大きく異なるため、あまり同じモノだと決めつけるべきではないと思うけれど、Webブラウザという窓を通し、様々なアプリケーションをサービスとして利用する、という考え方は同じ。
 古く遡ればIBMホストに対する3270端末ののようなもの……とまで言ってしまうと、異論も多くなるだろうか?

 冒頭に挙げた記事でも書いたように、Netbookが開発された本来の目的からすれば、Chrome OSはまさにNetbookにピッタリのOS(かつてのNetscape風な言葉で言えば、OS無用のWebブラウザの方がシックリくる)に思える。インターネットのサービスを利用することに特化した小型端末としてNetbookを捉えるなら、Googleが用意したアプリケーションをネットワーク越しに使えれば、それで用は足りる。
 おそらく多少の拡張性は有しているだろうから、Chrome OS搭載ハードウェアが生まれてくれば、そこに様々なプラグイン的なソフトウェアも追加されていくだろう。オフライン時の利用はGoogle Gearを用いたオフライン機能でカバーするのだと思う。

 こうしたシンプルなOSが発表された背景には、Webによるアプリケーションの完成度が高まってきた事やネットワーク環境の変化、サーバ側のパフォーマンスやストレージ容量の増加、オフラインアクセス機能に対する一定の目処など、様々な要素が揃ってきたからだろうが、もうひとつはNetbookが台数ベースで無視できないほど大きくなってきたため、市場性が急速に高まったからだろう。

 しかし、Chrome OSはインターネットに集約したアプリケーションを動かすには適した端末だとしても、それだけで用途のすべてはカバーできない。物事には向き、不向きがある。"クラウド"というマーケティング用語で抽象化の上にさらなる抽象化を重ねたとしても、サーバ集約的なコンピューティングモデルの本質が変わるわけではない。
 要はサーバへの依存度が強い方が良いアプリケーションと、端末上で動作させる方が都合の良いアプリケーション、どちらに向いたモデルか?の違いだ。どちらにも得意なところ、どちらにも不得手なところがあり、それぞれに問題を解決しようと努力を重ねてきた。

 従って汎用性の高い端末を開発しようと思うのであれば、両方の利用モデルに対応できなければならない。サーバへの依存度が高い方が良いのか、それとも低い方が良いのか、その比率は、アプリケーションのタイプだけでなく、その時代のコンピューティング環境、それに使われ方によっても異なる。

 邪推するなら、Googleが2番目のOSにChrome OSを選んだのは、そうした汎用性、多様性に対応してWindowsと直接競合することは出来ないと判断したからではないだろうか。サーバ依存が高い利用スタイルのみに限定すれば、多様性はあまり求められない。
 考えてみて欲しいのだが、世界中のほとんどのパーソナルコンピュータ上でWindowsが動作し、大部分のソフトウェアやサービス、周辺機器がWindows上で動作している。普段はこの部分が抽象化されているので意識することは希だが、これほど多くのハードウェア上で動作し、あらゆるアプリケーションに適合する膨大なAPIと、その膨大なAPIをカバーするクラスが用意され、考えられる使い方のほとんどにWindowsは対応できている。デベロッパサポートに関しても、情報量やツールの多さなど様々な面で他を圧倒している。
 そんな中でGoogleが汎用OSを作ってマイクロソフトを喰う、なんてことは、SFチックな話か、あるいは表層だけを拾った言葉遊びにしか思えない。ユーザーや顧客からは見えにくい"クラウド"という言葉でビジョンを描きたい人たちにとっては、マイクロソフトが対立軸の方が判りやすいのだろうが、テクノロジをシンボル化して、マーケティング向けのIT用語だけで物事を考えていると、どんどん実態から乖離していく。

 もっとも、Googleに期待していないというわけではない。冒頭の記事でも書いたように、NetbookやMIDといった分野でChrome OSやAndroidが適切な使われ方をし、その枠組みの中でエコシステムが構築されるのであれば、従来的なPCとは異なるタイプの製品を生み出してくれるだろうという期待感はある。3.9G世代の高速ワイヤレス通信インフラが整おうとするこの時期ならば、新たなコンピューティングのスキームも生まれるかもしれない。

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