稼ぐ力を形成するようにキャリアパスを描けないか ~『稼ぐ力』を読んで
キャリアパスは会社勤めの方にとって大事な問題です。キャリアパスとは役職がどう上がっていくかという昇進の考え方を示したもので、会社側としても、次にどんな仕事をさせたら良いのか、どんな研修を受けさせたらよいのかを決める判断基準にもなっています。
最近は役職が上がっていくことに興味が無いという人が増えてきていますので、いちがいにキャリアパスが大事だと押しつけるわけにいきませんが、役職よりも「稼ぐ力」に結びつけてキャリアパスを考えれば、重要性を認識できるのはないかと思います。
実際、最近は自立を選ぶ若い人、とくに女性のなかにそういう人が増えてきているようです。これはいきなり独立して会社を始めるということだけでなく、会社に所属していても、いかに会社に寄りかからずに食って生きていけるかということです。個人の力として「稼ぐ力」をどうやって形成していくかが、キャリアパスの本質的な課題になってきているのではないでしょうか。
またキャリアパスは転職して会社や業種を変えることになっても形成されていくもので、欧米ではだいたい3回まで転職した人の給料が一番高いという傾向があるようです。日本ではまだそこまでの状況になっていないかもしれませんが、稼ぐ力は本来、会社や業種をまたがっても形成されていくものなのでしょう。
稼ぐ力をどうやって形成するか
さて、稼ぐ力はどんなキャリアパスによって形成していったらいいのでしょうか。
世界的経営コンサルタントの大前研一氏は自著の「稼ぐ力」の中で、このキャリアパスを大きく三つのフェーズで整理しています。企業側はこうしたフェーズを前提にしたキャリアパスを構築しなくてはなりませんし、また個人のほうでもそうしたキャリアパスが無いと感じれば転職して自分にあったフェーズを経験する必要があるのだと思います。
● 会社人生の第1フェーズは「受命・拝命」
このフェーズは入社から30代前半までで、会社から与えられた仕事をきちんとこなして結果を出す時期。言われたことに対して成果を上げられることが重要なので、あまりこの期間が長くなると自分で考える能力が育たなくなるとのこと。
● 第2フェーズは管理職として経験蓄積
このフェーズは30代前半から50歳までで、3つぐらい異なる分野で管理職として仕事をするのが良い。ここで営業一筋、経理一筋で過ごしてしまうと、事業を俯瞰する能力が育たず、次のフェーズで失敗していまうので、分野をまたがった経験が必要になるとのこと。
● 第3フェーズは自分のやりたい仕事をやる成熟期
50歳前後から60代半ばまで。ここまで進んだ人は大きく3つの役割が求められる。
・スタート・ニュー 「新しい事業を立ち上げる」
・ターン・アラウンド 「だめな事業を立て直す」
・ドゥ・モア・ベター 「中核事業をさらに伸ばす」
3つとも向いている人は滅多にいないので、適性を判断することが大事になるとのこと。逆に同じ会社の中でこうしたシチュエーションに出会う機会も限られてくるので、自分の適性を踏まえて会社を移る決心も必要になるだろう。
稼ぐ力を確実に増やしていくには
そして、稼ぐ力を確実に増やしていくにはキャリアパスを早めることが必要になるのではないでしょうか。
今年から定年制が改正され(改正高年齢者雇用安定法)、65歳定年が本格化していきますが、これは企業にとっても社員にとっても不幸を招く制度だと思います。大前氏によれば定年は本来は第2フェーズの終わる50歳前後がよく、しかも早いほどよいということです。
身近な実例もあり、私の知人がいるサイボウズ社ではなんと35歳で定年を勧告される(※訂正を後述)とのことでした。知人は35歳を超えたので、副業をしはじめ独立の準備を居ながらにして行っているようです。副業も会社公認とのことで、決して後ろめたい気分はありません。三つのフェーズを早いサイクルで経験できるIT業界のことだからかもしれませんが、競争の厳しい業界では、こうして稼ぐ力を早く成長させる仕掛けが必要になると思います。
それからもう一つは、第1フェーズから第2フェーズまでの間に限られますが、自分の勝負期と勝負スキルを決めることです。これはまさに自分の「天職」を見極めるということで、その時期は死に物狂いで頑張らないといけません。この経験があれば、「転職」市場においても評価されるからです。勝負をかける時期によって磨くべきスキルも違っているようで、大前氏によれば、「勝負期を30歳とするならデータ分析などの実務スキル、40歳とするならリーダーシップ、その間の35歳とするなら両方のバランス」だそうです。
政府が進めたように定年を65歳にするというのは、会社にとっても社員が重荷になる、悲しい未来が想像されます。大前氏のいうように、本来は50歳までには定年を迎え、50歳以降はセカンドキャリアを踏んでいるほうが会社にとっても社員にとっても幸せな未来を描けるのではないでしょうか。
以上は、以下の書籍を参考に書かせていただきました。
稼ぐ力: 「仕事がなくなる」時代の新しい働き方
大前研一 (著)
小学館刊行
ここでは書評というよりは、本書に基づいて私個人の意見を発展させていただきました。とくに参考にさせていただいたのは、以下の章です。
第3章<新しい働き方研究> 世代別の稼ぐ力をどう鍛えるか
時間のあまり無い方はこの章だけでも参考になると思います。
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<※訂正>
関係者から指摘があり「サイボウズ社では35歳で定年を勧告される」は誤りでした。
正しくは、サイボウズ社では35歳までは再入社できる制度があるということでした。36歳以上には独立支援制度があり、これは退職して独立する人には会社として応援するという趣旨のものでした。
ご指摘いただいたことに感謝申し上げます。
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