久美子氏と勝久氏は何が違っていたのか ~ターゲティングの視点~
先日とある会社の研修で、受講生からターゲティングとポジショニングをひっくり返して進めても良いですかと聞かれてイエスと回答しました。STP(Segmentation, Targeting, Positioning)をご存じの方にはピンとくる話だと思いますが、顧客を特定する作業(ターゲティング)を、提供価値を特定する作業(ポジショニング)の後で行っても良いかという問いでした。
顧客と提供価値を整合させることが大事なことですので、これは発想の順序だけの問題です。顧客起点で提供価値を決めても(T→P)、価値起点で顧客を特定しても(P→T)、いずれも問題ありません。文脈によって使い分ければ良いことです。
大塚家具のケース
そのときは事例を説明しませんでしたが、今日のテレビ報道で大塚家具の大塚久美子社長のインタビューを聞いてこれがまさに例だと感じました。久美子社長は「(勝久会長とは)目指すところは同じ」と強調していました。私もその通りだと思いました。中価格帯の高付加価値家具を販売したい、という点です。商品の付加価値や販売員の質の高さを強みにする大塚家具として当然なポジショニングの考え方で、この点は勝久氏も久美子氏も同じだったと思います。
では何が違っていたのでしょうか。顧客ターゲットの考え方に端的に表れていました。勝久氏は会員制にこだわっていました。しかしこれは私もかつて大塚家具のお店に入ったときに経験したのですが、入店の敷居が高く、店員が最初から最後まで付きそうスタイルはどうも買いづらいと思いました。店員から勧められるままに買いたい方には良いでしょう。しかし自分で情報を集めて買い物をするタイプの方には合わないと感じました。久美子社長が会員制の廃止にこだわったのは、そこにあると思います。
ポジショニングを起点にターゲットの切り直しをした
久美子社長がしたことは、ポジショニングを起点に(価値を変えずに)、ターゲットの切り直しをしたことです。顧客を大ざっぱに収入軸と情報収集態度の軸で切ってみると、勝久氏も久美子氏も「収入に余裕がある層」という点では同じです。しかし勝久氏がこだわった会員制は、アクティブな情報収集をするタイプの方を切り捨てていました。久美子氏はここが駄目だと思ったのでしょう。情報収集がアクティブで収入に余裕のある生活者は、見逃せない大きさの市場だと感じたからではないでしょうか。
私見をはさみますが、時代の流れとしては情報感度が鋭く自分で情報を集める人のほうが社会的地位が高く、収入も多くなってきているように思います。久美子氏のターゲットの切り直しは妥当だと思います。
さて、先日の研修は、新人研修でした。かつて中堅以上の社員に対して行っていたマーケティングの研修は、いまや新人へのメニューになりました。ことフレームワーク学習に関しては、理解の速さは中堅も新人も変わらない、という印象です。進入社員の「ポジショニングの後にターゲティングを行っても良いか」という質問は、営業経験がゼロだからこそ思いついたのかもしれません。自分にも新鮮な経験でした。
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