プロモーションをユーザー体験を起点に組み立てられないか ~『USERS』を読んで
売る段階になると売り手都合の考え方に戻ってしまう
新サービスを市場に導入するときに、広告費用を投下してユーザーに認知を勝ち取っていくようなやり方はもはや時代遅れになってきている。
とくにゼロから立ち上げた事業になると、立ち上げ当初に一定量の認知を確保するのが大きな課題になるが、認知を図るためだけに大きなコストを払うことが、不安に満ちた賭けになる。認知がどれだけとれてもそれが商談や購入に結びつくとは限らないからだ。
それでも進めるしかないという決断の中で、多くのプロジェクトは先の見えないプロモーションに突き進んでしまっているのが実情だ。
市場調査の段階まではユーザーの視点に立ちきっていても、売る段階になるとなぜかこうして売り手都合の進め方に陥ってしまう。認知したユーザーの何百分の一かは確率的に問い合わせをしてきてくれるんじゃないか、そしてさらにその何分の一かは購入に到るのではないかと勝手に思い描いてしまうのだ。
ユーザーの体験する有用性に基づいてユーザーを導く、ユーティリティ・マーケティングの考え方
ユーザー体験を起点に、つまり、どうやってユーザーがサービスを使い始めるかを起点に思い描けば、そういった売り手の都合でユーザーを色分けするやり方にはならない。
デジタルマーケティング会社、HugeのCEO、アーロン・シャピロによれば、ユーザーの体験する有用性に基づいて客を新しいサービス体験へと導く必要があるという。
アーロン・シャピロはこれを「ユーティリティ・マーケティング」と言っている。ユーザーの体験する有用性がどうやって始まるのか、どうやって増幅されていくのかに着目した考え方だ。
このしくみを、次のような「トラフィック・フレームワーク」にまとめていて面白い。ここでは私のほうでトラフィック・フレームワークをちょっと単純な構図になるようアレンジさせていただいた。
フィルターというのはグーグルのような検索エンジン。ユーザーが何かしたいときは、決まって検索エンジンを頼って目的のサイトにたどり着く。
インボックスというのは個人のメールボックスや、フェイスブックのフィード(投稿)を指す。ユーザーは価値を感じるものしか貯めたり、共有したりしない。
目的地がこれから構築したいブランドになるわけだが、フィルターは検索エンジンに頼るしかない。インボックスはブランド自身が作るわけにはいかない、ユーザー側に存在する機能だ。
ユーザーから見て、目的地との間に、目的の探索を果たすための「フィルター」、そして学習を果たすための「インボックス」という二つの通り道を想定した組み立てをすることで、有用な体験が育まれていくという構図だ。探索と学習を、ユーザーは別の機能によって果たしているという見方もできそうだ。
このトラフィック・フレームワークが示す二つの通り道は、我々がついつい売り手都合で組み立ててしまうプロモーション施策を、ユーザー視点から見事に切り直してくれそうな気がする。
このあたりの話は、アーロン・シャピロの次の著書の「第5章 ユーティリティ・マーケティング」に詳しく書かれています。
USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略
アーロン・シャピロ(著)、
萩原雅之(監修)
梶原健司(翻訳)、伊藤富雄(翻訳)
翔泳社刊行