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弱みの自覚にこそ成功の原点。人間くさいリーダーシップの本のご紹介

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経営トップやリーダーのサクセスストーリーを描いた本は多いが、本当にわたしたちを奮い立たせるのは成功への憧れや成功の背景にある才能や努力、、、などの模範的側面だけではない。さらにその背景にはハンディキャップの認識や屈折した感情すら隠れていたりする。いや、むしろそれこそ見てみたいものだ。そこにリアリティを感じるからだ。

━━成功要因の本質は強みにあるのではなく、弱みを自覚することにある。ある意味、弱みを感じやすい感度は大切だともいえる。ナイーブな問題は由来をきちんと聞かなければ聞き出せないもの。本に著されたものになかなかお目にかかれない理由もそこにあるのか。

知り合いから頼まれて、自己の弱みやハンデの克服を原点にして成功したトップやリーダーの書籍を紹介してほしいと言われのたで、思い当たるものを挙げてみた。せっかくなので、ここにも紹介しておきたい。

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一勝九敗
柳井 正(著)

ユニクロ(ファーストリテイリング社)創業者・柳井氏の著書。一勝九敗とは、打った手の10中9の手が失敗だったことを言う。柳井氏は、「ユニクロ商品の悪口」を募集したところ応募1万通のほとんどが品質へのクレームだったことを直視。成長のまっ最中に危機の信号を進んで感じ取ろうとするのは、危機は想像によって意識されるものではなく、直に触れなければ感じられないことの証拠。アンケートをとった勇気に敬服するしかないが、柳井氏は決して超人ではなく、凡人の感度をもって危機を想像しようとしたことを私たちも学ばなければならない。

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想うことが思うようになる努力
鳥羽博道(著)

著者鳥羽博道氏はドトールコーヒーの創業者。父親と衝突して家出をしたことが喫茶業界に入ったきっかけ。鳥羽氏は入社したコーヒー豆卸売で営業を任されたものの性格は内向的で、極端な対人恐怖症。当初は営業に多いに苦労した。しかしさんざん悩んで「トークが不得手なら売り込まず、その店に役立つことをしよう」と。鳥羽氏は常に与えられた立場を超えて役割を果たそうとした。内向的性格はハンディキャップであったと同時に、顧客目線など客観視点からものを見る強みにもつながっていることがよく伺える。

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覇王の家
司馬 遼太郎(著)

徳川幕府の長期政権を築いた徳川家康の伝記。家康は隣国今川家の人質にあったなど屈折した幼少期を送っている。家康は勝ち目が出るまで戦を仕掛けないなど、戦国大名の中では腹黒さを指摘されることが多いが、実はとても臆病で執念深い一面も。そうした家康の性格が徳川幕府の300年に渡る安定性(や併せて閉鎖性)やさらには日本人の国家観に通底する要素としても見えてくる。理想的なリーダー像というよりは現実のリーダー像を感じさせるのではないか(もしかしたら古くさいリーダー像なのかもしれませんが)。

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ながい坂
山本周五郎(著)

下級武士から抜擢され、藩主の命で土木工事の責任者となった三浦主水正(主人公)が、幾多の妨害を受けながら仕事を進めていく話(フィクション)。治水や農地拡大の意義のある土木工事だったが、それを妨害する勢力に命を狙われることも。
出世をしたことが恐怖や孤独となって報われることを気付かされるたび、主人公は大いに悩むが、子供の頃に身分のために回り道を余儀なくされた屈辱感を思い出し、恐怖や孤独をはねのける。意気揚々とした正義感ではなく、どちらかといえば薄暗くじめじめした感情がバネになって正義を貫いたというところに人間くささを感じる。

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さて、強みより弱みの自覚こそが成功要因といったが、これは企業戦略にも当てはまる。しかしこんなパラドックスは戦略の教科書には分かりにく過ぎて書かれない。どちらかといえば自己啓発書に書かれる類のフレーズだろう。しかし戦略が示す図式が裏切られる多くの原因もここにある。

そこそこ上手く行っている会社よりも、つぶれかけるまでダメになった会社のほうが大成功の期待が大きい。それでもゆっくりダメになりたがる会社が多いのは、弱みの自覚が強みの原点になることを知らないからだろう。経営者は弱みをデリケートな問題にしすぎてはいけないとつくづく思う。

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