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バッファを隠し持ってはいけない

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プロセスデザインエージェント芝本秀徳です。

プロジェクトのバッファの取り扱いに悩むマネジャーは多いようです。 どう扱えばバッファは機能するのでしょうか。

衝撃を減らすバッファ

プロジェクトは不確実なものです。要求は変化するし、見積りにはバラツキがあります。この不確実性に対処するためのアプローチは3つあります。

1)不確実性そのものを減らす
2)徐々に不確実性を減らす
3)衝撃を減らす

の3つのです。

想定外の出来事やトラブル、見積りと実績の乖離など、計画外のことが起きたときのダメージを減らすアプローチが「衝撃を減らす」です。このアプローチがとる方法論の一つが「バッファ」のマネジメントです。

バッファはどう取り扱うのか

バッファの基本的な考え方は、別エントリに書いたのでそれを読んでいただければと思います。ここで議論したいのは、バッファをどのように取り扱うべきかということです。つまり、

「バッファはメンバーに知らせるべきか」
「バッファが誰が管理すべきか」

の2つです。

バッファがあることをメンバーに知らせれば、メンバーがあてにしてしまう。だから、メンバーには知らせない。そういうマネジャーが多いのは事実です。仮に、バッファがあることをオープンにしても、バッファを使うにはマネジャーの許可制にすることがほとんどです。

バッファは「オープン」「本人管理」が基本

私は原則として「バッファはオープン、かつ本人管理」が望ましいと考えています。「メンバーがアテにしてしまう」「本人に管理させれば使い切ってしまう」と思われるかもしれません。しかし、実際にやってみると、そんな事態はあまり起こらないのです。

「オープン、かつ本人管理」がよいと考える理由は3つあります。

(1)メンバーもプロである
(2)クローズされたバッファは人を疲弊させる
(3)人は他人のものなら気前がよいが、自分のものは惜しむ

の3つです。

メンバーもプロである

「バッファをアテにされたら困る」というのは、暗に「メンバーを信頼していない」ということです。メンバーを信頼していないリーダーが、メンバーから信頼されることはありません。後になって「実はバッファを持っていたんだ」と言われることほど、リーダーとしての信頼を失うことはありません。

メンバーもお金をもらっているプロであり、スケジュールや納期に遅れたいと思っている人は誰もいません。みな、納期を守りたい、プロとしての仕事をしたいと思っています。だからこそ、スケジュールにはできるだけ余裕を持ちたいと思うのです。

バッファをオープンにし、本人に管理させることは、「あなたをプロとして認めます」という意思表示であり、「プロとしての仕事を求めます」という要求です。メンバーも、プロとして扱われれば、プロであろうとしてくれます。

クローズされたバッファは人を疲弊させる

マネジャーによっては、バッファがあることをギリギリまで知らせずに、限界まで働かせて、直前になって「実はあと1ヶ月待てる」というような人がいますが、そのときのメンバーの脱力感は計り知れません。

私が昔関わったプロジェクトで、「あと1ヶ月」「あと1ヶ月」と、結局は半年ものバッファがあったプロジェクトがありました。メンバーは「あと1ヶ月頑張れば終わる」そう思って限界ギリギリまでやります。そのギリギリの状態を6ヶ月、続けたわけです。これはメンバーを人間扱いしていないに等しいのです。

納期が伸び伸びになるのが続くと、メンバーは「ほんとに終わりなのか」を疑うようになります。どれぐらい頑張ればいいのかがわからなくなるのです。モチベーションも、マネジャーへの信頼もガタガタになります。

人は他人のものなら気前がよいが、自分のものは惜しむ

バッファをオープンにし、本人に管理させると不思議なことが起こります。メンバーがバッファを使いたがらないのです。

たとえば、期間的なバッファが2週間あったとします。まだスケジュールが遅れているわけではないので、残業する必要はありません。しかし、バッファが本人管理になると「バッファは温存しておきたい」という心理が働いて、「前倒し」で進めようとするのです。

マネジャーがバッファを管理していれば、できるだけバッファをもらおう、使おうとします。しかし、バッファを本人が管理していれば、そのバッファは「自分のもの」なので、できるだけ使いたくないと思うのです。

プロジェクトマネジメントの基盤は「信頼」

そうは言っても、バッファをオープンにし、本人に管理させることは、マネジャーにとってはとても勇気がいることかもしれません。マネジャーの「保険」がなくるわけですから無理もありません。

しかし、プロジェクトの実行主体はマネジャーではありません。マネジャーはあくまで案内役です。メンバーが動かなければプロジェクトは前に進みません。そのメンバーを信頼せずには、よい人間関係を築くことも、成果を出すことはもできません。

プロジェクトの基盤は「信頼」です。信頼があってこそ、プロジェクトマネジメントも機能します。そして「信頼」は、バッファの扱い一つにも出るものなのです。



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