仕様ドロップすべきか?
こんにちは。
プロセスデザインエージェントの芝本秀徳です。
少し時間があいてしまいましたが、PMIセミナーでお約束したケーススタディの第2弾です。今回のテーマは「仕様をドロップすべきか?」です。
着眼ポイントは3つ。
着眼ポイント①:メンバーの稼働状況はどうか?
着眼ポイント②:機能ドロップの判断はいつまで待てるのか?
着眼ポイント③:所与の条件に思い込みはないか?
①メンバーの稼働状況はどうか?
プロジェクトの進捗が遅れていれば、おそらくメンバーの負荷は相当高くなっているはずです。残業に続く残業、休日出勤などが恒常的に発生しているのであれば、負荷を下げる必要があります。
しかし、それよりも重要なのは、その稼働状況におけるメンバーの「モチベーション」です。ある機能をドロップすれば、その機能に思い入れがあるメンバーにとっては心理的に大きなダメージになることは予想できます。
さらに、担当していた機能がドロップされて、他の機能の開発にアサインされれば、「お手伝い」感覚になってしまうのは避けられません。少なくとも、その機能の「当事者」「オーナー」になるまでには時間がかかってしまいます。
仕様をドロップすべきかどうかは、単に計算上の工数や、メンバーの稼働時間だけではなく、メンバーのモチベーション、プライドなど、心理的な側面をふまえた上で判断しなければならないということです。
②機能ドロップの判断はいつまで待てるのか?
プロジェクトマネジャーがすべき判断には、2つの種類があります。一つは「マイナスを最小化する判断」、もう一つは「プラスを最大化する判断」です。
マイナスを最小化する判断とは、そのままにしておけば信用を失ったり、品質が悪なったりと、「被害」が大きくなる可能性が高いときにする判断です。言うなれば、「血を止める」判断ということができます。マイナスを最小化する判断は、できるだけ早く判断をしなくてはなりません。逡巡している間にどんどん被害が拡大するからです。
一方の「プラスを最大化する判断」は、機会から得られる利益を最大化するための判断です。ある機能をドロップすれば、その機能があれば売れたかもしれない「機会」を逃すことになります。機会から得られる利益を最大化するためには、判断を保留することも、「判断」の一つになるのです。
このケースの場合は、コストを抑えるというマイナスを止める判断と、販売機会を最大化するというプラスを最大化する判断の両方が存在しています。このときに考えなければならないのは、「いつまでなら判断を待てるのか?」ということです。
マイナスを許容できる範囲で、利益を最大化するギリギリのタイミングを図る必要があるということです。
③所与の条件に思い込みはないか?
プロジェクトの真っ只中にいると、プロジェクトの条件がすべて「所与」のものだと勘違いしてしまいがちです。いまある条件がすべて絶対のものと思い込んでしまうのです。しかし、条件そのものに働きかけることで、問題が問題でなくなることはよくあります。
このケースの場合、
・納期は絶対なのか?
・出荷までのスケジュールで詰められる工程はないのか?
・人を追加でアサインすることはできないのか?
・ドロップ対象となっている以外に、落としやすい機能はないのか?
など、可能性はいくらでもあります。
条件を所与のものとして扱うのではなく、条件そのものに働きかけること選択肢として考えることができれば、広い視野に立って問題解決を図ることができます。
■実際の対応
私がマネジメントしていた実際のプロジェクトでは、私の判断は「1ヶ月保留」でしたが、顧客先に出張しているわずか半日の間に、上級管理職が「ドロップ」を決めてしまいました。
実際に1ヶ月保留していれば、結果がどうなったかはわかりません。しかし、この機能ドロップが課題を先送りにし、あとあとの高負荷、機会ロスを招いたということは事実です。
上級管理職は担当プロダクトを持たないために、プラスを最大化することよりも、マイナスを止めることに目がいきます。さらに「保留」することへの抵抗もあるのです。
一般に判断は「即断即決」がよいとされています。しかし、それは「マイナスを止める判断」のみの場合です。「プラスを最大化する」ためには、判断を保留し、グレーな状態を許容することも必要なのです。